命を得た言葉



「あ、あれ…半蔵どの!?どうして!?」

「…主在る所に…影在り…」


地を這うような低い声と、静かな夜を思わせる闇色の瞳。
悠生は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
まるで本当の影のように音も無く現れ、悠生を抱きかかえていたのは徳川の忍び・服部半蔵だったのだ。
背に回された手は思いの外優しくて、それが彼の心のあたたかさを表しているかのようだった。
これまで何度か顔を合わせる機会があったが、一流の忍びであっても案外半蔵は人間らしい人だと、悠生はよく理解している。

しかし何故、此処に半蔵が…と口を開けて驚く悠生をよそに、義元と阿斗は新たに姿を現した彼の主・徳川家康に目を向けていた。


「義元殿、楽しそうで何よりですな」

「の、家康!もしや、まろと蹴鞠をしに…」

「いえいえ、此度は劉備殿に大事な話があり、お訪ねしたのです…」


苦笑混じりに、義元の誘いを断った家康だが、その笑みはとても優しげである。
悠生は半蔵に抱き起こしてもらい、戦国三英傑の一人である家康と、傍らに並ぶ稲姫の姿を確認した。
彼女は悠生の存在に気が付くと笑みを浮かべ、深々と頭を下げてくる(慌てて会釈をして返した)。
劉備を訪ねて成都城を訪れた徳川の人々。
義元と蹴鞠をするのが目的でないことだけは、確かであろうが…


「半蔵どの、ありがとうございます。だけど、劉備さまにお話って…?もしかして、また戦が始まるんですか…?」

「……、」


分かっていたことだが、やはり現実は厳しい。
半蔵が僅かに眉を寄せるのを見て、悠生は唇を噛みしめた。
すると、阿斗が駆け寄ってきて、半蔵から引き離すかのように悠生の手を引っ張る。


「あ、阿斗…」

「戦と言ったな。諸葛亮も言っていた。遠呂智の脅威は未だ去らず、父上が兵を挙げる日も近かろうと」


戦が、始まる。
遠呂智は眠りについたが、彼の復活を望むものが居る限り、世に真の平安が訪れることはない。
阿斗も、経験を積むために次の戦には同行することになっていた。
悠生と同じように、既に諸葛亮から話を聞かされて、複雑な想いにかられていたのだろう。


 

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