命を得た言葉



「僕、蹴鞠は初めてなんです。運動も苦手だし…こんな僕にも出来ますか?」

「何も心配は無いの!蹴鞠は楽しむもの、の!ゆっくり、慣れていってほしいの!」


すると、義元はふわりと軽やかな動きで、鮮やかな色をした鞠を蹴った。
たったそれだけでも優雅に見えてしまうのだから、義元は本当に高貴な人間なのだろう。
…などと考えている間に、ぽん、と音を立てて飛んできた鞠を、悠生は思わず手で受け止めてしまった。

サッカーもドッジボールも苦手だから、蹴鞠とは言え、悠生がボールを手でキャッチしたのは生まれて初めての経験でもある。
それでも、蹴鞠は足で蹴り返さなくては意味が無いのだ。
悠生が開始早々失敗しようとも、義元は変わらずににこにこしている。


「のの!悠生殿、鞠を落とさぬように、此方に蹴ってほしいの!もう一度いくのっ!」

「は、はいっ!」


再び、義元が蹴った鞠は綺麗な弧を描いて悠生の元に向かって飛んでくる。
相手が蹴りやすいように返す、なんて気配りが出来ない悠生は、鞠が地に着く前に何とか蹴り返そうと必死に足を出した。
かろうじて鞠が爪先に当たり、あらぬ方向へと飛んでいく。


「悠生、私に任せよ…」

「阿斗…!」


阿斗は悠生の変化球をものともせず、冷静に鞠の着地点を見極め、さっと足を出して綺麗な色をした鞠を宙に浮かせた。
悠生の蹴った鞠だから、何が何でも受け止めると、阿斗の強い意思がその一蹴りに現れている。
人前ではやけにのんびりしているように見えるのに、阿斗はすっかり、玄人のようだ。

義元は鞠が自分の元へ返ってきたことにたいそう喜んでいた。
蹴鞠とは、こうやって皆で楽しみ、喜びを分かち合うことに意義があるのだろう。
悠生は、次の鞠はまた落としてしまったが、熱心な義元の教えを受けるうちに、真っ直ぐ鞠を飛ばせるようになってきた。
上手く出来るほど面白くなってきて、悠生は夢中になって鞠を蹴り、義元や阿斗との穏やかな一時を楽しんでいだ。


「…っ…わ!!」


多少の無茶は気に止めず、無理に鞠を蹴り返そうとした悠生は、勢いあまって足を滑らせてしまう。
阿斗が驚いて悠生の名前を呼ぶが、返事をする余裕は無い。
格好悪い姿を晒すことを覚悟しながらも、ひっくり返る前に受け身をとろうとした悠生だが、結果的に床に頭を打ちつけることはなかった。


 

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