命を得た言葉



ぽん、ぽんと軽やかな音が聞こえてくる。
広大な演習場の真ん中に、たったひとりで蹴鞠を楽しむ、今川義元の姿があった。

悠生の知る物語上では、義元は先の戦いで魏軍…曹丕や三成の元に降ったが、遠呂智が倒れた後、劉備の評判を聞き付け、蜀に暮らしていたそうだ。
囚われの身であった阿斗と、義元がこうして懇意な仲になったのも、義元が敵意を感じさせない、分け隔ての無い優しさを秘めているからだ。
阿斗から話を聞かされた時は面白くなかったが、義元が相手ならば…むしろ、とても嬉しく思った。


「の、の!阿斗殿、よく来てくれたの!」

「義元殿、お久しぶりです」


珍しくも、阿斗は礼儀正しく拱手し、満面の笑みで駆けつけてくる義元を迎えた。
素直に相手を敬っているからこそ、自然と丁寧な態度を見せるのだろう。
孤独な日々を過ごさなければならなかった阿斗は、倭の国の遊びを伝授してくれた義元に心から感謝しているのだろうと、何となく感じた。

義元は色鮮やかな蹴鞠を手にしていたが、阿斗の隣に並ぶ悠生に気が付くと、円らな瞳を瞬かせて熱い視線を送ってくる。


「義元殿にご紹介致したく連れて参りました。私の義兄弟で、親友である悠生です。悠生にも、蹴鞠を教えていただけませぬか?」


どこか誇らしげに、阿斗は悠生を親友だと紹介する。
阿斗はこれから何人友達が出来ようとも、ずっと、悠生を一番の友として大事にしてくれるのだろう。
だから、悠生も阿斗がずっと一番なのだ。
大好きな友達を、もっと好きになっていく。
もう、阿斗無しでは生きられないぐらいに…、悠生はこの幼い親友に依存しているようだ。
盲目的になってしまうことはしかしたら危険なことかもしれないけれど、今の悠生は、阿斗と一緒に居ることが何より幸せで、離れることなんか考えられなかった。


「阿斗殿の友!それすなわち、まろの友と言っても過言では無いの!悠生殿には、特別にまろが直々に蹴鞠の極意を伝授してやろうの!」


義元は新たな蹴鞠の遊び相手を得て、相当嬉しかったのだろう。
唇をつり上げ、満面の笑みを浮かべながらぐっと顔を近付けてきたため、驚いた悠生は息が止まりそうになる。
…だが、見慣れてしまえば案外、可愛いものだ。


 

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