命を得た言葉



一晩ゆっくりと眠れば、若さゆえか体調もすぐに回復し、翌日には通常通りに動き回ることが出来た。
悠生が発熱したり具合を悪くすることはもう慣れっこではあろうが、阿斗も随分と心配してくれたようで、顔を合わせた途端に「大丈夫か、無理をしてはならぬぞ」と不安げな声を聞くこととなった。
阿斗は手のひらを悠生の額に押し付け、熱を確かめようとしてきたり、ついには自らの額を悠生の額へぶつけてくる。
彼の優しさや気遣いが嬉しくて、悠生は笑みを浮かべ、大丈夫だよと頷いた。


「病み上がりのそなたを連れ回す訳にはいかぬ。だが、少しで良い。私に付き合ってはくれぬか?」


阿斗がやけに真剣な顔をして言うものだから、悠生は首を傾げるも、深く頷いてみせる。
こうも改まってお願いをされると何事かと身構えてしまいたくなるが、阿斗の雰囲気は柔らかい。
当たり前のように手を繋ぎ、肩を並べて廊下を歩いていると、阿斗は事の次第を話し始めた。


「実は私の御友人に、遊びに付き合ってほしいと誘われていたのだ。そこで、悠生を紹介しておこうと思ってな」

「阿斗の、友達?」

「ああ。遠呂智との戦いの後、父上を慕い、一族で蜀に身を寄せていたそうだ」


まさか、阿斗に友達が居たなんて、夢にも思わなかった。
彼の言葉を素直に受け取ることが出来ず、悠生はほんの少し、寂しさを覚える。
阿斗の隣に並ぶのは一人だけ…自分だけなのだと、勝手な想像をし、自惚れていたのだ。
悠生は思いのほか嫉妬している自分に気付き、情けなさとともに悔しくなってしまった。

しかし、阿斗のことを恨めしく思うのは筋違いであろう。
悠生は呉の小春や、夢の中ではあるが卑弥呼と友達になっていると言うのに、阿斗に友達が居たからと焼き餅を焼くのは、心が狭い証拠ではないか。


「良き御仁なのだ。公家と言い、化粧を施した顔は白く面妖ではあるが…優しく、遠呂智の人質であった私ともよく遊んでくださった」

「公家?」

「そう、蹴鞠と言う遊びを教わったのだ!恐らく今日も、私と蹴鞠をするつもりなのであろうな。案ずることはない、そなたにも丁寧に教えてくださるだろう」


公家で、蹴鞠を嗜む…白い顔のお友達。
思い浮かんだ人物は、悠生の頭の中でも陽気に飛び跳ね、笑顔と元気を振りまいていた。


 

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