願う子の声を



卑弥呼は、きっと阿斗に出会う前の悠生自身で、彼女もまた、阿斗のような存在に出会えたら、強く生きていくことが出来るはずだ。

…だが、これは夢。
現実では、思い通りに事が運ぶことは決して無いのだ。
妲己ではなく、この僕が…、卑弥呼を連れ出すことが出来たなら、人類の敵となる間違った道を歩ませずに済んだかもしれないのに。


「会えるん…?目が覚めても、うちは悠生はんと…友達になれるん?」

「きっと…ううん、絶対に。約束するよ。僕は卑弥呼ちゃんを悲しませたくない」

「…あんた、本当に良い人やね。あかんな、うち、悠生はんのこと好きになってまいそうや」


熟れた林檎のように顔を赤くして、卑弥呼は照れたように笑う。
口説いているつもりは全く無かったのだが、同年代の女の子に好意を寄せられるのは、悪い気はしない(こんな感情は、浮気になるだろうか)。

絶対だなんて、実際は、自信を持って言えたことではない。
だけど、何があっても、友達を傷つけることだけはしたくなかった。
阿斗が一番であることに変わりはないが、もし、卑弥呼に会うことがあったら、彼女の手を握ってあげたいと思うのだ。


「ちょっと恥ずかしいんだけど、僕には恋人が居るんだ…」

「ええ!?そうなん!?」

「でも、僕も、卑弥呼ちゃんが好きだよ。だって、大事な友達だから」


にこやかに微笑めば、驚いていた卑弥呼も、少し遅れて笑っていた。

再び混沌に陥った世界に、数多の英傑が集い、脅威に立ち向かっていく…そんな物語の続きは、悠生と咲良だけが知っている。
物語の重要な出来事である卑弥呼と妲己の出会いは、恐らく、避けられないのだろう。

このまま彼女を夢から連れ出すことが出来たら良いのに。
そうしたら、彼女と敵対することも、戦うこともない。
出会ったばかりの幼い友達を悲しませる未来が容易に想像出来て、悠生は胸を痛めた。

悠生が卑弥呼と次に会うときは、敵と味方に分かれ、胸を張って友達だと言えない状況に陥るかもしれない。
それでも、逃げてはいけない。
あたたかな夢から覚めても、過酷な現実と向き合わねばならなくても、ひたすら純粋に慕ってくれる女の子の、その太陽のような笑顔を守りたいのだ。



END

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