願う子の声を
邪馬台国の民が皆、卑弥呼を敬い、崇め、神の血を継ぐ少女を国の象徴としてまつり上げようとしている。
ちょうど、三国時代の頃の倭国の話だ。
卑弥呼は妲己に連れ出されるまで、籠の鳥同然だったのかもしれない。
無垢でいとけない娘・卑弥呼と傾国の妖女・妲己との出会い、それは…まだ先の出来事のようだが…
「じゃあ、もっと笑ってほしいな。大丈夫だよ、此処には僕しかいないから」
「あんた…ふふっ…変わった子やなあ!可愛い顔して、格好いいこと言わんといてよ。うち、おかしくなってまう!」
太陽のように、ぱっと光が射す。
今も頬は涙で濡れているけれど、卑弥呼はやっと笑ってくれた。
悠生も嬉しくなって、「ありがとう」と呟いたら、彼女の警戒心は薄れたようで、ついに心の内を明かしてくれる。
「うちな…寂しかったんよ…うち、みんなに遊んでほしいのに…お願いしたって、友達になってくれへん」
「だから、泣いていたんだね…」
「なあ、あんた…名前も知らへんけど、うちの友達になってや!夢ぐらい、自由に見たって良いやろ!?」
卑弥呼は悠生の手を掴み、不安そうな目をして…また、涙をこぼした。
友達になってほしいと、その切なげな言葉を聞いた悠生は、親友・阿斗ではなく、孫呉の小春のことを思い出した。
陸遜の許嫁である小春も、出会ったばかりの悠生に友達になってほしいと願ったのだ。
あの時、心が弱かった悠生は小春を傷つけるようなことを言ってしまったが、今は彼女の気持ちを理解してあげられる。
自分だって、阿斗に出会う前は強く友達を求めていたはずだ。
友達が欲しいという心は、少しも疚しいものではない。
悠生自身、卑弥呼の申し出が嬉しく感じられた。
この人となら仲良くなりたい、と思われたのだから、むしろ名誉なことであろう。
「僕は黄悠…悠生って呼んでくれるかな?卑弥呼ちゃん」
「悠生はん…?良い名前、やね」
「ありがとう。僕たち、今日から友達だよ。夢の中だけじゃない…夢から覚めても、友達でいよう?」
こんなふうに、自ら友達を作ろうと思えるようになったのは、阿斗のお陰である。
阿斗はずっと、友達でいてくれる…、大好きだから、そう信じることが出来る。
阿斗の存在が、いつしか勇気を生んだのだ。
今はちっぽけなものかもしれないけど、友達を想う気持ちは、誰にも負けない。
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