願う子の声を



「あんた誰や!?うちの夢、勝手にのぞかんといて!」

「ご、ごめ…っ…」


泣きながらも関西弁でまくし立てる卑弥呼の剣幕に圧倒されてしまい、狼狽えた悠生は言い返すことも出来なかった。
夢の中だというのに、卑弥呼は小生意気で、強がりで…取っ付きにくい。
どうせなら、もっと楽しい夢が見たかった…などと嘆いてもいられない。

再び俯いて泣き出してしまった卑弥呼を見下ろしていたが、暫くしてから、悠生は黙って隣に腰を下ろした。
一定の距離は保っているが、下手に声をかけたらまた彼女の機嫌を損ねてしまいそうなので、悠生はただ卑弥呼の泣き声に耳を傾けていた。

傍に居るだけで、何をする訳でもない。
涙の理由も、わざわざ尋ねたりしない。
卑弥呼にとって、悠生は他人だが、彼女を知る悠生からしたら、出会う前から旧知の仲であるような…複雑な感情が存在した。
それに、ひとりで泣くのは、寂しいと思ったのだ。
力にはなれないかもしれないけれど、今は此処に居てあげたい。
ひとりじゃない、と教えてあげたかった。

いつしか、卑弥呼は居心地の悪さを感じたのか、ひっくとしゃくりあげながらも顔を上げ、訝しげに悠生を見つめた。


「あんた…暇なん?それとも、うちをからかってるん?」

「違うよ。卑弥呼ちゃんが笑ってくれるのを待っているんだ」


夢の中だからと辿々しい敬語は使わず、悠生は卑弥呼を安心させたい一心で、静かに笑って見せる。
素直に返答したつもりだったが、卑弥呼は酷く驚いているようで、次の瞬間にはかっと頬を赤くし、目を逸らした(予想外の反応であった)。


「や、やっぱりからかってるやん!うちを口説こうとして…っ…」

「え?」

「うち…"卑弥呼ちゃん"なんて呼ばれたの、初めてなんよ。だから…嬉しい…!」


卑弥呼は服の袖で目元を擦り、真っ赤になった顔を隠すようにして鼻水をすすった。
卑弥呼ちゃん、と呼ばれたことがない…、それはきっと、彼女が女王候補として大事に育てられてきたからだろう。


 

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