願う子の声を



遠くから、誰かの泣き声が聞こえてくる。
どうやら、幼い少女のようだった。
切なげな声は一向に止まず、悠生も悲しくなって、胸の奥が鈍く痛んだ。

重力を失ったかのようにふわふわと漂い、悠生はぼんやりとしながらも、夢を見ていることを実感する。
だが、いつもの夢とは少し違った。
これは確かに夢だけれど、特別な夢だと、何となくそう思ったのだ。


(僕の夢の中で、泣いているのは誰…?)


厚く靄がかかり、その先はよく見えないけれど。
弱々しく輝く光を見つけたような気がして、悠生は淡い灯火を目印に、思い切り飛んだ。
翼が生えたかのように軽やかに跳躍し、そして一気に降下する。

そこに、光は確かに存在した。
俯き、膝を抱えて震えている少女の姿を見ただけで、悠生は彼女の名を知ることになる。
強く記憶に残っている、無双の力を持つ武将の一人。
神々の血を受け継ぐという、邪馬台国の女王候補の娘…彼女は、最も幼い英傑だ。


(この子は…卑弥呼じゃないか…!)


悠生よりも年下であろう黒髪の少女は、幼子のように泣きわめいていた。
知らぬはずはない、無双のキャラクター。
何も不思議なことは無いはずだ、これは悠生の夢である。
実際に、悠生は左慈と言葉を交わしたばかりで、これからのことを案じるあまりに、物語の主要人物となる卑弥呼の夢を見てしまったのかもしれない。
では、どうして卑弥呼は泣いている?


(僕は…卑弥呼が可哀相だと思っているのか…?)


幼い彼女の運命を、定めを。
決して報われることの無い悲しき結末を知り、哀れんでいるからこそ、このような夢を見てしまったのだろうか。
様々なもやもやを抱えながら、じっと視線を送り続けたら、卑弥呼は人の気配に気付いたのか、ゆっくりと顔を上げた。
初めて、互いの視線が交わった。

大きな瞳に、透明な涙の粒が浮かんでいる。
子供らしくふっくらとした頬に、次々と涙が流れていたが、卑弥呼は突如として姿を現した悠生を警戒し、キッと睨み付けてきた。


 

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