天へと向く心



唐突に雲緑の名を聞かされた趙雲は、先程までの甘ったるい空気が嘘のように、怪訝そうな顔をする。
怒らせてしまっただろうか。
本当はこんな話…、したくないのだ。
だけど、諸葛亮の言うことは何一つとして、間違っていないと思うから。

趙雲のような男が、誰か一人のものにはなるはずがない。
このまま、僕だけを…なんて思っても、そんな我が儘は聞き入れてもらえない。


「いきなり何を言い出すかと思えば…貴方が気にすることでは無いだろう。そもそも、何故私が一向に返事をしないか、分からないのかい?」


ふっと柔らかく笑った趙雲は、不安げに瞳を揺らす悠生の頬に手を添え、こつんと額をぶつけた。
機嫌を損ねてしまったかと思ったのに、趙雲はこんなに優しくて…悠生はどうしてか、泣きそうになってしまう。
分からない、と首を横に振ったら、趙雲は耳たぶをなぞるように唇を寄せてくるから、嫌ではないのだけど、くすぐったくて身をよじる。


「今は、貴方のことしか考えていたくないのだ。念願叶って、悠生殿と恋仲になれたのだから」

「でも…っ…やっぱりそれじゃ、駄目なんだと思います…僕は…子龍どのの子供を生んであげられないから…」

「また…そのようなことを…。確かに雲緑殿は美しく、私には勿体無い御方で…縁談を断る理由など無い。貴方が望むならば、今すぐに返事をしに行こう」


そう、それで良い。
むしろ、早く趙雲と雲緑が結婚してくれた方が安心出来る。
伴侶を得たからと、趙雲の愛情が薄れることは無いと信じている。
少しだけ、胸が痛むのは…仕方がないことだけれど。


「僕、子龍どのをひとりじめしたい、なんて言いません。だから…っ…」


今にも溢れ出しそうな苦しみに耐え、僕のことは気にしないで雲緑どのと結婚してほしいのだと…強がった言葉を伝える前に、悠生の震える唇は、趙雲によって塞がれてしまった。
…卑怯だ、そんなのは。
いつものように、口付けは少しだけ強引で。
だけど、嫌いじゃない。
触れ合う唇が、あたたかさが心地よくて、嬉しくて…瞳にじわりと涙が滲んだ。


 

[ 22/65 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -