天へと向く心



悠生は寝台に腰を下ろすと、履き物を脱ぎ、そのままごろりと転がった。
体を丸めて、目を閉じて…、思い浮かべるのは咲良のことだ。
幸せに生きて…と願ってくれた、大好きな姉の笑顔を思い出していた。


(咲良ちゃん…、また、会えるのかな…)


こうして呼び戻されたからには、何かしら役割を与えられたのだろう。
遠呂智の復活を阻止すること、もしくは、妲己の暗躍により再臨することになるであろう遠呂智を…、再び封じること。
どちらにしろ、咲良は再び乱世の波に呑まれてしまうかもしれないのだ。

悠生はどうしても、咲良を苦しめたくなかった。
元々、悠生は旅に出るつもりで居た。
全てを知っているからこそ、遠呂智の再臨を防ぐため、太公望の力を借りて先に脅威を潰しておくつもりだった。
咲良が必死に守り抜いた世界を、大事に守っていきたかったから。

悠生は結局、甘い幸せに目が眩んで、やるべきことをほったらかしにしてしまった。
だけど、今こそ一歩踏み出す時なのかもしれない。
…今度こそ、僕が頑張らなくちゃ。
阿斗も咲良ちゃんも、大切な人達を全て、守ってあげたい。


(もし…また会える日が来たら…僕は幸せだよ、って伝えたいな…)


様々な考えを巡らせているうちに、うとうとと、激しい睡魔に襲われた悠生は、趙雲の部屋であることも忘れ、ゆるゆると眠りに落ちた。
指先に触れた趙雲の羽織を掴み、引き寄せて…


どれぐらい、そうしていただろうか。
気持ち良く眠っていた悠生は、体が揺さぶられていることに気が付き、微睡みから解き放たれる。
だが、ぱっと起きることが苦手な悠生は、ううんと唸るだけで目を開けられない。


「…ん…う…」

「悠生殿…、全く…困った人だ…」


呆れたような…それでいて優しさに満ちた声が、寝足りないと静かに駄々をこねる悠生の耳に届けられた。
未だ悠生は寝ぼけ眼で、多少の違和感を覚えるも、これは夢なのでは…と錯覚してしまう。
好きな人が、傍に居てくれる幸せな夢。
だが、何の断りも無しに、額に誰かの唇が…押し付けられた時、悠生は初めて状況を把握し、飛び起きる。
すっかり寝入ってしまったが、此処は、趙雲の私室だったのだ。


 

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