天へと向く心
咲良は最後まで、悠生の幸せを願っていてくれた。
だから今度は、悠生が咲良の幸せを守らなくてはならない。
咲良と同じように、命を懸けることは…出来ないけれど。
言いかけた時、左慈は咳払いをして悠生の言葉を遮った。
「そなたなら、そう言うと思ったよ。だが此度に限っては、小生らはそなたら姉弟の力を借りるつもりは無い」
「どうして…ですか?僕は…僕たちは平和を望んでいます。協力をしない理由なんて…」
「これ以上、そなたらの幸せを、奪い取るようなことは出来ぬよ」
左慈が苦笑するのを見て、悠生は彼ら仙人の気遣いを感じ取り、何とも言えない気持ちになった。
悠生は盤古という神とされているが、ただの人間と何ら変わりない。
そんな人の子に頼りきり、二度までも身を滅ぼさせて戦わせることは、仙人としても受け入れがたいのだろう。
誇り高き仙人達は己のプライドを守るため、先に悠生に忠告をしに来たのだ。
「それでも…僕は戦います。でも、今度は阿斗を守るために戦うんです。皆も…大事な人のために武器を持つんです。相手が悪いから仙人に任せようなんて、思う人はいません」
皆で悪しき者と戦い、皆で大切な者を守る。
それが出来るのが、人間だ。
国境を越え、時代を超え。
遠呂智との戦いの中で、人間達の絆はいっそう深まったはずだ。
だから、一緒に頑張ったって良いでしょう、と悠生は困った表情をする左慈に訴える。
戦に出るのは嫌だが、見てみぬふりをするのはもっと嫌なのだ。
左慈は初めこそ複雑そうではあったが、悠生が笑ってみせると、ふっと柔らかく微笑んだ。
「困ったことだ…幼さ故の妄言とはどうしても思えぬ。そなたは身も心も強くなった。最早、"五年"と拘る必要も無いのやも…」
「五年って?」
「ならば、小生がそう呟いていたと、若き龍に伝えるが良い」
左慈は意味深な一言と共に、淡い光となって消えてしまった。
最後の最後に謎めいた言葉を残すなんて、意地が悪いではないか。
(五年…、五年後なんて今は全然想像出来ないけど…)
当たり前のように阿斗の傍に居て、趙雲が居る…そんな幸せな未来が来ることを、悠生は望んだ。
どんなに大変なことがあっても、彼らが居てくれたら、悠生は生きていける。
それが、咲良が守ってくれた"幸福の世界"なのだ。
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