天へと向く心



(僕じゃ、頑張ったって雲緑どのの代わりにはなれないからなぁ…)


悠生の足取りは重く、初めて自分から趙雲の邸を訪ねると言うのに、全く楽しくなかった。
勿論、今日会うことを約束していた訳ではないし、趙雲は執務や部隊の訓練で忙しく、手が放せないことを知っているから、邸の侍女に話し、仕事が終わるまで待たせてもらうことにした。

悠生が通された部屋は、こじんまりとしているが、きちんと片付いていて清潔感のある空間だった。
侍女が静かに戸を閉め、一人になった時、悠生は此処が趙雲の私室であることに気が付く。
てっきり客間に案内されたと思っていたのに…許可無く私室に入って良かったのだろうか。


(勝手知ったる仲…だと思われているのかな。恥ずかしいけど、そうだったら嬉しいな…)


悠生は室内を見渡したが、特別興味を引くものは無かった。
趙雲は一日のほとんどを執務室が訓練所で過ごすから、私室は寝泊まりをする場所に過ぎないのかもしれない。
椅子に座って待っていようかと思った悠生は、寝台の上に、丁寧に畳んで置いてあった羽織を見つけ、何となくそれを手に取ってみる。

凄く綺麗に畳むんだな、などと、どうでも良いことを考える。
侍女が用意して置いたものかもしれないが、何の気なしに鼻先を近付けてみると、うっすらと趙雲の匂いがした。
抱き締められたときに感じる、趙雲の髪の香りを思い出し、急に顔が熱くなってくる。


(って、何してるんだ!これじゃ僕、変態みたいじゃないかっ)


他人の服の匂いをかぐなんて、失礼だしおかしなことだ。
羞恥を感じた悠生は羽織から手を放し、まずは落ち着こうと深く息を吐いた。
誰かに見られたら弁解も出来なかっただろう、一人で良かった…と思いながらも、悠生は視界の隅に先程まで存在していなかった"白"を見つけ、息を詰めた。


「さっ…左慈どの…!?」

「いかにも。久しいな、悠久よ」


突如として現れた仙人・左慈は目を細め、慌てふためく悠生を見つめていた。
たった今登場したのならば、一連の恥ずかしい姿は見られていないはず…と悠生はどうにか理由を付け、立ち直ろうとする。
大きく深呼吸をして、左慈に向き直った。


 

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