最愛の故郷



湯殿から出た悠生と阿斗だが、阿斗がちゃんと髪を拭かずに服を着ようとするので、悠生は慌てて声をかける。
しかし阿斗は気にするそぶりも見せず、「どうせなら尚香に拭いてもらおうと思ってな」とやけに楽しそうに笑った。


(そうか…阿斗は尚香さまに甘えたいんだ)


言葉にはしないが、阿斗は久しぶりに再会した義母との、離れていた時間を取り戻そうとしているのかもしれない。
髪を乾かさずに、阿斗は嬉々として部屋へと戻っていく。
悠生も急いで阿斗を追い掛けたため、半乾きになってしまったが、一足遅れて尚香の部屋に辿り着いた時、阿斗が何故か星彩に髪を拭かれているのを見て、目を丸くする。


「黄悠!あなたもそんな頭で戻ってきたの?風邪を引いたらどうするつもり?」

「しょ、尚香さま…」


悠生は呆れたように溜め息を漏らす尚香にごしごしと髪を拭かれてしまうが、どうしてこうなってしまったのかよく分からない。
星彩に同じことをされている阿斗は平然としているが、内心ではきっと、どきどきしていることだろう。


「せっかくだから、一緒にお茶を飲んでもらおうと星彩も呼んだのよ。結局、阿斗のお世話をさせてしまったけど」

「尚香、私はもう阿斗ではない!子供扱いしないでほしい」

「あら、じゃああなたも私を母上と呼ぶべきよ。ねえ、星彩?」


くすくすと笑う尚香に同意を求められた星彩はこくりと頷き、美しい瞳で阿斗を見つめる。
阿斗はうっと唸り、困ったように俯くが、星彩は阿斗に見られていないところで、柔らかく微笑んだ。


「劉禅様、子供でないのならば、髪はご自分できちんと乾かしてください」

「…分かった、気をつける」


阿斗がこれほど素直になるのは星彩の前だけであろう。
しおらしくなる阿斗が可愛くて、悠生はこっそりと笑うが、いきなり尚香に顔を覗き込まれてどきりとしてしまう。


「黄悠、あなたもよ。子供で居ても良いけれど、二人とも元服したんだから。…それとも私より、趙雲に拭いてもらった方が良いのかしら?」

「そ、そんなことは…!」


突然、趙雲の名を出され、悠生がかっと顔を赤くすると、尚香は可笑しそうに声をあげて笑った。
趙雲にされたら…以前の自分なら、平気でいられたのだろうけど、今となっては恥ずかしくて死んでしまいそうだ。
それ以上、からかわれることは無かったけれど、悠生は暫くの間、熱くなった頬を冷ますことが出来なかった。



END

[ 14/65 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -