最愛の故郷



「まだ、子龍にも話していないのだな」

「…言えないよ…信じていない訳じゃないんだ。僕が、弱いから…」

「そなたの気持ちは分かるが、隠し続けていてもいつかは知られてしまうぞ。覚悟はしておくことだ。いつ閨に連れ込まれるかも分からないのだから」

「……、」


この人は本当に年下なのかと、悠生よりも経験が少ないはずの阿斗が深いところまで突っ込んでくるので、思わず耳を塞いで逃げ出したくなった。

趙雲の愛を疑っているわけではない。
あれほど熱い目をする人の、その心が偽りだとは少しも思わない。
この入れ墨を見せたとしたら…、きっと趙雲は、何の躊躇いもなく受け入れてくれるのだろう。
どんなに醜くても、嫌われたりはしない。
愛してくれると…、信じていれば良いのだ、趙雲の恋人は、悠生なのだから。


(分かってる…阿斗だって、傍に居てくれるんだから…)


…あと一歩を、踏み出す勇気が無かった。
だけど、阿斗が背を押してくれたのだから、少しぐらい先に進むべきだ。
生々しい恋愛事情を知られることに羞恥を感じない訳ではないが、親身になって話を聞いてくれた阿斗に感謝し、悠生は笑って見せた。


「今すぐには無理かもしれないけど…頑張って言ってみる。ありがとう、阿斗に相談出来て、楽になったよ」

「そなたの役に立てたのならば本望だ。さて、そろそろ湯から出るか。尚香も待ちくたびれているだろうし、のぼせてしまうからな」


阿斗の顔が赤くなっているのを見て、悠生は微笑みながら、そうだねと頷いた。
趙雲のことも気になるが、今は親友との楽しい時間を満喫しなければ。

…きっと、穏やかな日々は長く続かない。
いつ、このあたたかな幸せが終わるかも分からないのだ、悠生が生きる、乱世という時代は。


(後悔だけは、したくない…しちゃいけないんだ…)


例え再び戦場に赴く日が来ようとも、弟想いな姉が与えてくれた幸せを、いつまでも、大事にしていきたい。
それだけが、大好きな咲良に出来る唯一の、恩返しとなるのだから。


 

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