最愛の故郷



「辛かっただろうに…よくぞ打ち明けてくれた…もう、痛みは無いのか?」

「ん…大丈夫、ありがと…ごめん…」

「何を謝っている。悠生に落ち度は無いだろう」


嫌われるのが怖いからと黙っていたこと。
勝手な想像に恐怖するあまり、大好きな阿斗を信じられなかったこと…。
申し訳なさや数々の不安を口にせずとも、阿斗には悠生の心が手に取るように分かるようだ。
年相応な子供らしい笑みを浮かべる阿斗が、弱気になっている悠生には、とても頼もしく思えた。


「私が悠生を嫌うことなど有り得ぬ。このような入れ墨一つで、私たちの絆が壊れることは無かろう?」

「うん…信じてるよ…」

「ああ、何も案ずることはないのだ」


強く阿斗の手を握り、悠生は瞳に涙を浮かべながらも、笑った。
あれほど悩んでいたのに、もう心があたたかい。
大好きなんだと、改めて確認し合う。
指を絡めることにいやらしさを感じたりはしなかったが、阿斗は唐突に、照れたようにふいっと目線を逸らした。


「そなたの様子がおかしかったのは、入れ墨のせいだったのだな。私はてっきり…」

「てっきり?」

「いや……、」


阿斗は些か言いにくそうではあったが、苦笑しながらも口を開いた。
彼の次の言葉は何よりも衝撃的で、悠生は一瞬、思考が停止しそうになる。


「…子龍に愛された痕でも残っているのかと…思ったのだ」

「……、はあぁ!?ば、バカじゃないの!?」

「馬鹿とは何だ!」


阿斗の発言の内容を理解した時、悠生はこれまでに無いほど真っ赤になる。
愛された痕…即ち、肌を吸われた際に残る鬱血した所有印のことを言っているのだろう。
勘違いではあれ、趙雲と情を交わしたと思われていたのだから困ってしまう。
阿斗はふんと鼻を鳴らし、「そなた達は思い合っているのだから不思議なことはあるまい」と何故か自信ありげに言い放った。


「もう…本当にそうだったら、流石に隠していたよ…!」

「そう恥ずかしがるな。いつ子龍がそなたに手を出すかも分からんぞ。だが、口付けぐらいはしているのだろう?」

「っ……してる、けどっ…!でも…僕、こんな体だしさ……」


阿斗の質問は直球で、悠生は趙雲との恋愛事情について暴露させられたが、再びがっくりと肩を落としてしまう。
いくら阿斗が相手でも、そんなことまで明け透けにしたいとは思わない。
悠生は頭を抱え、はあっと溜め息を漏らした。
…口付けならば、何の問題は無いだろう。
目を閉じて、熱を追っているだけで良いのだから(それが精一杯なのだけれど)。

だが、それより先のことを考えれば、話は違ってくる。
大好きな人にキスをしてもらえるだけでも幸せなのに、もっと愛してほしいと願ってしまう。
男のくせに、なんて女々しいのだろう。
趙雲のことが好きで好きでたまらない。
それでも、悠生が大きな秘密を隠したままでは、趙雲と本気で愛し合うことは…きっと出来ないのだ。


 

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