最愛の故郷



何を言われるかと、眉を寄せる悠生を見た阿斗は、何故かにやりとし、すぐに同じ湯の中に入ってきた。
悠生はせめてもの抵抗として、右肩を隠すように向きを変えるが、阿斗は全く詮索をせず、気持ちよさそうに鼻歌を唄っている。
…いったい、何を考えているのだろう。


「悠生…私はそなたのことが誰より大事だ。その身や心が私だけのもので無くなっても…まあ、多少は妬いてしまうが、悠生が友であることは変わらない」

「阿斗……」

「だが、隠し事をされると落ち込むぞ。勿論…私が首を突っ込むべきではないとは思うが…それでも、悠生のことは、全て理解していたいのだ。煩わしいだろうが、そのぐらいの我が儘は許してほしい」


純粋なまでに友を想う言葉と阿斗の真剣な瞳に、悠生は魂までもが貫かれた心地だった。
ここまで友を想ってくれる人が、軽蔑したり、わざわざ酷いことを言ったりするはずがない。
ずっと傍に居ると、約束してくれたのに。
ほんの僅かでも親友の心を疑い、不安を覚えた自分が情けなくて…、気付けば悠生はぽろぽろと涙を流していた。
阿斗はぎょっとし、大きな目を見開かせる。


「なっ、泣いているのか…!?すまぬ、やはり介入しすぎたか…」

「違うよ…嬉しかっただけ!…僕、阿斗が大好きだ。本当に…阿斗が一番だよ…」

「そ、そうなのか?私も悠生のことが好きだが…」


泣きながらも微笑む悠生に困惑する阿斗だが、それでも頬につたう涙を拭おうと手を伸ばしてくる。
悠生はそんな親友の手を握って、白く濁った湯で覆われていた右肩に、阿斗の手を導いた。
すると、明らかに阿斗の顔色が変わる。
肌とは違う…凹凸の存在に気付き、阿斗は初めて、悠生が意図して隠していた肩を凝視した。


「これは…蛇…!?なんということだ…もしや、遠呂智にやられたのか!?」

「ごめん…黙っていて…、話すのが怖かったんだ。でも、遠呂智は僕の怪我を治してくれて、その時、この入れ墨を残したんだって…だから、遠呂智を責めることも出来ない…」

「何を言うか!!遠呂智め…このようなやり方でしか、想い伝えることが出来ぬなどと、心が弱い証拠だ…!」


阿斗は怒りに唇を戦慄かせていた。
入れ墨のことを秘密にしていた悠生に対してではない、親友の体に消えない傷を残した魔王に対してだ。
だが、激昂する阿斗の姿を見るのは辛い。
まだ身も心も幼い阿斗に、余計な恨みや憎しみの念を抱かせたくなかった。
…そう思っていたら、阿斗はとても苦しそうな表情で、だが優しい手つきで、肩を撫でてくれた。


 

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