迷い込む花びら



「おい姉ちゃん…高そうなモン下げてんなぁ」

「ヒヒッ…俺達、今日は運が良いじゃねえか」


自分達の欲のために他人を襲おうなど、これほど、汚い行いが出来る人間が居るとは。
咲良は千春を怯えさせないようにと強く抱き締め視界を塞ぎ、耳を覆う。
だがそれも意味が無く、男達の手が伸び、残酷にも二人を引き離そうとするのだ。


「やめてください!触らないで!娘には手を出さないで…!」

「ママ!?やだっ、ママぁ…!!」


咲良が必死な姿を見せ、嫌がれば嫌がるほど、無慈悲な賊は面白がって手を伸ばしてくる。
恐怖に泣き喚く千春は、もがいてどうにか逃げ出そうとしたが、軽く抑え込まれてしまった。
暴れたせいで鈴の紐が切れ、丸っこい鈴はけたたましい音を立てて転がっていく。


「チッ、うるせぇガキだな…!」


泣きながら騒ぎ立てる子供に苛立った男の手が、千春に向けて振り下ろされる。
咲良は悲鳴を上げたが、どれほど抵抗しても、己の拘束が解けることはない。


「いやっ…!!」


どうすることも出来ずに、絶望する咲良の目前を、風のような素速さで鮮やかな朱色が横切った。
ちりん…、と聞き慣れた鈴の音と共に。


「なっ、何者だ!ぐああっ!!」


千春に乱暴をしようとしていた男を、たった一蹴りでぶちのめしてしまう。
次から次に、賊達を蹴散らすその人と目が合い、咲良はほっと安心し、一筋の涙を流した。


「甘寧…さん……」


ぴくり、と咲良の窮地を救った男の眉が動く。
咲良の涙を見た古い友人・甘寧は、初めて怒りを露わにした。


「おい、お前ら…手を出した女が誰か分かってんのか…?」


低く低く呟きながら、賊の首根っこを掴んだ甘寧は、そのまま力任せに頭を地に打ち付ける。
気を失った男を蹴り上げ、次に、咲良を拘束していた男達へと狙いを定めた。
鈴の甘寧、名高き武将の登場に、混乱して情けなくも逃げ出そうとする賊達を、甘寧は一人たりとも逃すまいと立ち向かっていくのだ。
解放された咲良は、足に力が入らず、それでも必死になって千春の元へ手を伸ばした。
抱き締めた娘は、あまりもの恐怖に硬直し、呼吸もままならない状態だった。


 

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