まだ見えぬ人



世が平和になれば、悠生を危険な目に遭わせることも無くなる。
何度も辛い想いをした咲良の代わりに苦しみを背負おうと決意した悠生だが、咲良としては、弟の苦しみなど少しも望んでいないのだ。


(悠生…、私は、今でも悠生のことが、大好きなんだよ…)


悠生に、会いたい。
弟は姉との再会を望んでいないかもしれないが、咲良の中に生まれる悠生への愛情が失われることは有り得ない。

咲良は一息おいてから、改めて伏犠を見据えた。
孫策に小春の居場所を伝えることが、伏犠の目的であったのだろうが、咲良にはもう一つ聞いておきたいことがあったのだ。


「伏犠さん、実は私…先程、意識を失う孫策様に触れたとき、不思議なものを見たのです」

「何じゃ、不思議なものとは?」

「いや、そう言えば俺も、変な夢を見たんだよな。あれは間違い無く黄悠だったんだが、あいつ、いつの間に背が伸びたんだ…?」


やはり、孫策も同じ映像を見ていたのだ。
身長が高くなり、声変わりをして立派な青年となった、悠生の姿を。
もし、あれが悠生の未来であるのなら…、孫策は無意識下で、予言をしてしまったのだろうか。


「揃って、咲良の弟の夢を見たのだな。じゃがそれは未来では無かろう。小覇王の魂に残る記憶が見せた絵であると考えれば…悠久なる盤古、つまり、その夢の人物は悠生の前世であろう」

「前世…?じゃあ、前世の悠生は、前世の孫策様と顔見知りだったってことでしょうか?」

「わしは接点は無かったが、あやつはずっと、誰も気に止めようとしなかった盤古の存在に興味を持っていたようじゃからな。よく居場所を捜し出したものだと感心するわい」


孫策の記憶に残る、たった一場面であるが、とても優しげで、物憂げな印象を受ける綺麗な青年だった。
今を生きる悠生も、後数年過ぎたら、あのように成長するのかと思うと、姉としては嬉しい気持ちになるが、いったい彼は前世の孫策と何を…誰のことを、話していたのか。


「黄悠は、昔から友達を大事にする奴だったんだな。夢の中のあいつは、人から避けられている誰かを庇っているみたいだったぜ」

「避けられている人…ですか?」

「よく分からねえけど、黄悠はそいつを好いていたみてえだな」


盤古の過去である夢を語る孫策のその言葉に、伏犠は答えなかったが…、少し悲しそうな顔をして、微笑むだけだった。
それ以上何を問いかけても、伏犠は「わしにも触れてはならぬこと」として語りはしなかった。

盤古とかつての孫策が知る、誰かの物語。
いつか、誰かの口から語られる日が来るかもしれない。
きっとまだ、世の人々には知られていない、とてつもない苦しみが存在するのだ。



END

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