まだ見えぬ人



「小覇王よ。わしがこうして頭を下げようとも、仙人の罪は消えぬが…」

「…俺、遠呂智との戦いが始まる以前の記憶が無いんだ。お前達が俺に何かをしたのかもしれないが、別に、気にすることは無いぜ?それに、俺には咲良の親父を恨む理由なんか無いしな」

「おぬしは…大きな男じゃのう…。何としても、春の娘を救い出さねばならぬな」


孫策は本当に、何も覚えていないだけなのかもしれない。
だが、太陽のような彼の存在は、他人に勇気を与える。
仙人の過ちを咎めず、大きな心で罪を許す…清々しい孫策の笑みに、伏犠は救われたのだ。


「ところで咲良、厳島という地を知っているな?此処壇ノ浦から程近い」

「厳島…、龍の神様がお祀りされている聖地と聞いていましたが…」

「そうじゃ。清盛は厳島に春の娘を監禁しておる」


小春が、厳島に居る。
厳島は古くから龍神の加護を受ける聖地として、人々に厚く信仰されてきた。
日本地図を思い浮かべても、壇ノ浦と厳島はそれほど離れていない。
遠呂智によって融合されたこの世界の地図は無いが、もしかしたら距離が縮まっているかもしれない。
伏犠の確信を持った情報に、咲良も孫策も、漸く希望を抱くことが出来た。


「厳島か、よっしゃあ!今すぐに小春を助けに行くぜ!」

「頼もしいのう。小覇王、咲良、わしもずっと付き添ってやりたいが…そういう訳にもいかんのでな。じゃが何かあったら、すぐに助けに参ろう。左近も心配しておったからな」

「左近さんが…?そうでしたか…伏犠さん、もし宜しければ、左近さんに…」

「案ずることはない。咲良は元気だったと伝えるつもりじゃよ」


伏犠は現在、島左近の傍に居るという。
二人の出会いは咲良の存在により早まってしまったが、二人の共闘は言うなれば定めである。
左近の人柄や軍略を認め、人の子の歩む道を見届けるため、伏犠は彼らに寄り添うことに決めたのだろう。
咲良は古い友人の一人である左近の笑顔を思い出し、心から懐かしんだ。
いつかまた顔を合わせることがあったなら…その時も、笑い合うことが出来たら、嬉しい。


(伏犠さんと話が出来て、良かった…いつか、女禍さんにも、会いに行きたいな…)


少しずつでも、人間と仙人とのわだかまりが消えると良い。
国や人種、生まれた時代は関係無く、素直に手を取り合っていける世になれば…これ以上の悲しみは降り懸からないはずだ。


 

[ 68/69 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -