まだ見えぬ人



「春の娘…この際、正直に話すが、女禍は娘を己の後継者と定め、娘に仙人の力を与えたのじゃ。わしも、清盛が執拗に狙ったのは、女禍の与えし力だと思っておった…咲良が知るのも、ここまでじゃな?」


女禍が小春を仙界に連れ帰ろうとしていた事実に、孫策は衝撃を受けていたが、話を中断させまいと、ぐっと我慢しているようだ。
己の知らないところで、娘の身にただならぬ異変が起きていたのだ、本来ならばどういうことかと問い詰めたいところだろう。


「じゃが、わしも女禍も、思い違いをしておった。春の娘には、元より仙人としての力が備わっていたのじゃ。小覇王よ…おぬしがかつて、娘に与えし力がな」

「はあ!?ま、待てよ!俺が小春に仙人の力を与えた?何かの間違いじゃねえか?」


孫策は激しく動揺したが、流石に咲良も、思いも寄らぬ事実を告げられ、驚かずにはいられなかった。
つまりは、出会った頃には既に、小春は稀有な力を身に秘めていたということになる。
それが、孫策…仙人の生まれ変わりであった彼が、生まれたばかりの娘に授けたものだったのだ。


「おぬしは、美しき心を持つ仙人じゃった。詩を唄い、世の平和と人の子の幸せを誰より願っていた。じゃが、仙人に追い詰められ人に生まれ変わったおぬしは、再び身の危険を感じ、密かに能力と使命を春の娘に託し、そして死んだ…」

「俺が…仙人に殺された仙人だって…?まさか!むしろ、俺なんかよりも周瑜の方が仙人に向いているだろ?」

「確かに、おぬしは前世の姿と似ても似つかぬ。身の危険を感じ、姿形を変え、目を欺けたのじゃろう」


…予言、と言うものだ。
その仙人は、遠呂智降臨の、即ち世界の破滅を予言した罪により、他の仙人達に粛清された。
本来予言の中身は違ったのだが、彼は真実を打ち明けることをせず、無念を抱えたまま…孫堅の嫡男・孫策として生まれ変わった。
人の子として姿を変えようとも、仙人らは予言を恐れて命を狙うかもしれないと危惧したかつての孫策は、まだ乳飲み子であった小春に、己の全てを…父の想いとして、伝えたのだ。
その孫策もまた、聖人として民衆に慕われていた干吉を殺したと言う罪を理由に、再び仙人の手にかけられてしまった。


「すまなかった」


伏犠は突然、深く頭を下げた。
孫策は目を丸くするも、伏犠が謝罪する姿をじっと見つめている。
ひしひしと苦しみが感じられ、咲良はずきりと胸を痛め、彼らの深い悲しみに包み込まれるようだった。


 

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