まだ見えぬ人



やがて壇ノ浦の地は、美しい光を取り戻した。
大地には柔らかな風がそよぎ、海も穏やかな飛沫を立てていた。
咲良と言えば、伏犠の言葉通り、力を使った代償としての疲労を得ることはなかった。

幕舎に運ばれた孫策もすぐに意識を取り戻し、見る限り体調に問題は無さそうだが、伏犠による診断を受けているところである。
伏犠の話によると、孫策だけが障気に当てられたのは、「小覇王の魂は不安定で特別ゆえ」だと言うのだ。
孫策は訳が分からねえと首を傾げていたが、それは恐らく、彼の前世が関係しているのだろう。
しかし、咲良も仙人の込み入った事情など詳しく知る訳では無く、やはり伏犠に問うしかなさそうだ。


「なあ…お前は、咲良の親父か?全く似てねえが」

「わしが咲良の父か、まあ…間違ってはいないが、あの母親は気位が高いゆえ、認めんだろうな!」


以前、咲良の母と名乗った女仙・女禍を知っていた孫策は、仙人である伏犠を見て思い浮かんだ疑問を素直にぶつける。
手のひらを孫策に翳し、癒しの力を使っていた伏犠は困ったように答えたが、自尊心の高い女禍のことを思ってか、断言は出来ないようだった。

大喬に千春を預けているため、此処には咲良と孫策と伏犠、三人だけである。
とても大事な話があるからと、伏犠が申し訳なさそうに人払いを頼んだのだ。


「伏犠さんは、どうして壇ノ浦にいらっしゃったのですか?」

「実は、女禍に頼まれてな。咲良が此方に戻ったようだから、様子を見てきてほしいとな。あやつは多くは語らなかったが、わしも異変には気付いておった」


伏犠は笑って言うが、その笑みはどこか悲しげであった。
人間達が命を懸けて守った世の平安を、たったひと月しか保つことが出来なかった…彼が悪い訳ではないのに、伏犠は酷く悔いているようだった。
彼らが気付いた異変とは、何であろうか。
伏犠にしては珍しく、言葉を続けるのを躊躇っている。
これまで、何の事情も知らなかった孫策が、深く踏み込むことになってしまったのだから、伏犠も何か思うことがあったのだろう。


「近頃、各地で稀有な力を持つ幼子がこぞって狙われておった。首謀者は、黄泉より甦った平清盛じゃ。小覇王よ、おぬしの娘もまた、清盛に連れ去られた」

「咲良の言った通りだな…だが、誘拐されたのは小春だけじゃ無かったんだな。なあ、小春が持つ力って、いったい何なんだよ。あいつはどう見ても、ただの可愛い娘のはずなんだが…」


遠呂智を復活させるために必要だという力。
恐らくそれは純粋な子供にしか持ち得ない能力で、仙女の力を与えられた小春こそ、清盛は使える存在だと踏んだのだ。
このまま、小春が良いようにされては…、遠呂智が本当に復活してしまうかもしれない。


 

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