まだ見えぬ人



陸遜は蜀へ、甘寧は呂蒙の元へそれぞれ旅立ち、残った咲良は孫策に従い、小春を連れ去った平清盛の情報を集めることとなった。

平清盛…、平家と言えば、壇ノ浦の戦いを連想する。
源氏によって、平家が滅ぼされた有名な戦いである。
あまり歴史には詳しくない咲良でも、授業で覚えさせられた内容は、少しながら記憶している。
しかし清盛は壇ノ浦の戦の頃には既に亡くなっていたため、そこで何かが得られるかもしれないと意見するのは、的外れかもしれない。
だが、行く先を思案していた孫策に届けられた新たな報は、咲良の予感と一致していたのだ。


「最近、壇ノ浦とかいう地に存在していた平家の一族の首塚が破壊され、空の向こうに黒い塊が飛び去っていったらしいぜ。それ以降、壇ノ浦は深い雲に覆われ、海は荒れ続け人々は謎の病に苦しんでいるときた…、これは、何かあるに違いねえな」


壇ノ浦の地で、奇怪な現象が起き、人々を惑わせている。
直接的な要因ではないかもしれないが、清盛の復活と関係が無いとは言い切れない。
真実を確かめるため、孫策は壇ノ浦の地へと向かうことに決めた。

長旅となることは予測出来たが、未だに馬を扱えない咲良と、幼い千春が皆に同行するのは厳しいはずだ。
咲良の不安を察した孫策は、わざわざ馬車を用意してくれたのだが、これでは皆の足にはついていけない。
だから、咲良は恐る恐る試してみることにした。
太公望に与えられた羽衣が、今も自分の身を守っていてくれたなら…と、ささやかな期待を抱いて。


「ママ、かわいい!」


なんて、千春が感嘆の声をあげるものだから、咲良は己の首に絡まる美しい羽衣を目にする前に、ほっと安堵することが出来たのだ。
ふわりと宙に浮かぶ感覚は懐かしいものだった。
次に太公望と顔を合わせることがあったら、もう一度、改めて礼を言いたいと思った。

しかし、孫策に羽衣のことを告げると、危ないから馬車に乗ってくれと頼まれてしまい、結局羽衣の出番は無くなってしまった。


 

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