偽りなき愛を



「陸遜が蜀に行くってんなら、あんたも文を書いて持たせてやると良いんじゃないか?黄悠も喜ぶぜ」

「そうですね…夜が明けたら、すぐに返事を書きたいと思います」


今すぐに文を読まないことを甘寧は疑問に思ったようだが、咲良は笑って答えた。
「もう少し、お話をしませんか」と。
勿論、弟の言葉が気になって仕方がないのも事実ではある。
しかし、甘寧との別れが近付いているのなら、少しでも話をしていたいと思ったのだ。

咲良は素直な気持ちを述べただけだが、対して甘寧は、呆れたように溜め息を漏らした。


「相変わらずあんたって、何も分かってねえよな…」

「何もって…酷いですよ。でも、甘寧さんが居なくなったら、千春はきっと寂しがるでしょうね。あの娘は本当に、甘寧さんのことが大好きですから…」

「…あんたは?」


咲良が娘のことばかり気にかけるためか、甘寧は少々沈んだ様子で問い掛けた。
消えかかっていた炎がゆらゆらと揺れる。
…あんたは、寂しくないのか?
「俺のことが、好きじゃないのか?」と、耳には聞こえない声が、脳内に響く。
純粋すぎる甘寧の切なる想いが、今、咲良に重くのし掛かってきた。


(私だって寂しいよ…凄く、不安になる。でも私は、千春のために甘寧さんを利用した…)


甘寧のことが好きだった、それは既に過去のことだ。
現在、咲良はただ一人の男、周泰だけを愛しているのだ。
今更、甘寧の想いに触れることは許されない。

ふっと、炎が消えても咲良は答えることが出来ず、瞬きもせずに甘寧の黒い瞳を見つめていた。
長い長い沈黙の末、先に動いたのは甘寧の方だった。


「落涙」

「えっ?ま、待ってください…私は…っ…!」

「騒ぐと千春が目を覚ますぜ」


暗闇の中で甘寧の腕が伸び、どきりとした咲良は思わず後ずさろうとするが、逃げることは出来なかった。

…ぎゅっと、甘寧の腕に抱き締められた。
強く力を込められ、咲良は息を詰める。
千春を起こしてしまってはまずいと、強く抱かれたまま身動きも取れずにいた咲良は、身を縮こまらせ、息を殺すことが精一杯だった。

周泰以外の男に触れられてはいけない、と自分に言い聞かせるも、彼を押し退けることすら叶わない。
そして、甘寧を愛する千春のことを想うと…、胸が痛み、涙が出そうになった。


 

[ 59/69 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -