偽りなき愛を



(小春殿は…妹のような存在でしたが、いつの間にか、これほど美しい女性になっていたとは…)


大人と子供の境にある、侵しがたい小春の美しさを、やっと陸遜は気付くことになった。
だが、彼女はまだ、十一である。
幼い身で子を成せば、小春にかかる負担は計り知れない。


「急ぐことはありませんよ。私は小春殿以外、妻とする気はありません。ゆっくりと、準備をしていけば良いのですから」

「いえ…わたしは今すぐに、伯言さまの妻となりたいのです」


小春の決意は頑なで、揺るぐことがない。
陸遜は困惑を顔に出さないようつとめたが、小春は俯き、服の袖をぎゅっと握りしめて、今にも泣きそうな顔をする。


「落涙さまは…周泰将軍のことを、愛しておられたのに…世のために尽くされた結果、引き離されてしまいました…」

「小春殿……」

「わたしは、落涙さまのように強くあることが出来ませぬ…ですから、早く…終わりが訪れる前に、わたしは伯言さまの御子を授かりたいのです」


小春は、一部の人間しか知らされてない咲良の最後を、既に耳に入れていた。
咲良が命懸けで遠呂智への子守歌を奏で、あるべき場所へ帰ってしまったことを。
小春は咲良の定めを知っていたからこそ、別れの日、かつて陸遜が与えた櫛を咲良に渡すことに決めたのだ。
そして、尊敬する師と自らの運命を重ねた小春は、思い悩み、苦しんでいた。


「咲良殿…いえ、落涙殿の強さは、彼女だからこそ手に入れられたものだと、私は思いますよ。小春殿は、落涙殿とは違います。無理に強くならずとも良いのです。私はそのままのあなたを愛しく感じているのですから」

「伯言さま……」

「…お待ちしておりますよ、ずっと…」


その時、陸遜は初めて、小春を抱き締めた。
壊れ物を扱うように、酷く優しく…愛しいという想いを込めて、小春を抱く腕に力を込めたのだ。



幸せな一時は、長くは続かなかった。
夜も更けた頃、小春は約束通り陸遜の部屋を訪ねていたが、二人が体を重ねることはついに無かった。


(まさか、遠呂智軍の残党の襲撃を受けるとは…!)


陸家の邸内は、まるで地獄と化していた。
突如として邸に攻め込んできたのは、見慣れた異型の怪物…遠呂智軍の残党であったのだが、陸遜にも気付かれないよう迅速に見張りの口を封じ、素早く火を放つなど、敵に知恵者が居ることは確実であった。


 

[ 53/69 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -