小さな愛し子
胸騒ぎを覚えながらも、咲良はかちゃりと音を立て、蓋を開ける。
中には沢山の思い出の品が詰まっていた。
未だ色褪せない花形の首飾りを手に取る。
懐かしくなって、首に下げてみた。
それだけで、周泰と過ごした日々が、鮮明に蘇ってくるかのようだ。
折角だから久しぶりに笛を吹いてみようか、と手を伸ばしかけたとき、千春が横からさっと櫛を掴んだ。
「千春、その櫛が気になるの?」
「うん…おねえちゃん…?」
じっと櫛を見詰める千春の瞳は、咲良が見たこともないぐらいに真剣だった。
…目に見えない何かに、呑み込まれてしまいそうなほどに。
途端に、言いようもない危機感を得た咲良は、千春が握っている櫛を取り上げようと、そっと小さな手の上に己の手を重ねた。
咲良の指先が櫛に触れたまさにその瞬間、不安は的中し、嫌な予感は現実のものとなってしまったのだ。
「な…なにっ…!?」
「ママ…!?」
…光が、溢れていく。
二人が触れた櫛が、直視出来ないほどに眩しい輝きを放っていた。
千春の手からこぼれ落ちた櫛は発光し続け、やがて二人の体を淡い色の粒子で包み込む。
(まさか…っ…またあっちに連れていかれるの…!?)
もう二度と、戻らないつもりだったのに?
だが、そうとしか考えられないのだ。
仲良くゲームをしていた咲良と悠生を引き離した輝きに、よく似ていたから。
咲良はとっさに千春を抱き、強く目を瞑った。
白い光の渦の中、悠生の手を掴めなかったことを、後悔しない日はなかった。
今度は絶対、離れ離れにならないように。
光に、いざなわれる。
そして、落涙を呼ぶ悲痛な声が響き渡った。
『お助けください…っ…落涙さま…!』
小さな春の姫が、咲良をいざなう。
神にも愛された落涙の音を、再び無双の世界に響かせるために…。
END
[ 4/69 ]
[←] [→]
[戻]
[栞を挟む]