葬られた歌



「孫策様…私、心当たりがあります。小春様を連れ去ったのは、平清盛という男だと思います」

「平清盛?聞いたことが無い名だな。咲良、誰なんだそいつは?」

「三国の時代から、およそ1000年後の倭国に生まれた、とても大きな野望を持つ男です。小春様の力を利用し、遠呂智の再臨を実現するつもりなのかもしれません」


咲良が明らかにした、平清盛の存在。
全てを知っていたからこそ、示すことが出来た一つの道だ。
平清盛を追えば、必ず小春に繋がるはず。
確信を持った咲良の言葉に、意図が掴めない陸遜は瞳を瞬かせていたが、孫権から咲良についての大方の事情を聞かされていた孫策は、感心したように頷いた。


「つまり、信長の時代より数百年は前の人間ってことか。小春を使って遠呂智の復活なんざ、させる訳にはいかねえ。平清盛…すぐに皆に知らせ、対策を取るべきだな」


新たな敵・平清盛。
これまで、各地を渡り歩き、調査を行っていた孫策だが、その名を聞いたのは今日が初めてのようだ。
清盛はまだ、水面下でひっそりと動いている。
同じ志を抱く妲己でさえ、清盛の存在に気付いていないのかもしれない。
なればこそ、これ以上の被害者が出る前に手を打ち、何らかの処置を施すべきである。


「陸遜、お前は蜀に手を貸してやれ。仲間は多い方が良いからな。清盛について知らせ、一刻も早く遠呂智側の奴らを捕らえるんだ」

「お、お待ちください、私には…まだやるべきことが…」


孫策の命は、自ら小春を救いに行きたいと望んでいた陸遜の想いを、真っ向から拒絶するものだった。
劉備と孫尚香の婚姻により、呉蜀同盟は再び締結された。
今や天下の統一など、家督を実弟・孫権に譲った孫策には関係無いことだ。
世の安寧のために同盟国と力を合わせることが最も大切だと、孫策は考えている。
陸遜にしたら、孫策の発言は意に反していたかもしれないが、強く主張することも叶わないのか、その声は今にも消え入りそうなほど弱々しい。
孫策も意固地になっているため、まるで聞き入れようとしなかった。


「異論は無しだぜ、陸遜。今のお前を見ていると、小春を任せたいとは思えないんだよ。小春は俺が必ず救い出す。だから今は、小春のことは忘れろ。良いな?」

「…分かりました」

「だが、今すぐとは言わねえよ。病み上がりなんだ。お前に何かあったら悲しむのは小春なんだからな。…咲良、陸遜を看ててやってくれよな」


それまでの厳しい顔がふっと緩み、孫策は腰を上げると、ゆっくりと部屋を出ていった。
真面目なことを言ったかと思えば、こうしてあたたかい言葉を投げかける。
孫策はいつだって快活な男だと思っていただけに、珍しい一面を見せられたような気がした。


 

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