葬られた歌



綺麗に畳まれていた上着を手渡され、咲良は言われるままに手に取ってみてみる。
真っ赤な色をした衣装…だと思ったのだが、触れてみたら、乾燥してかさついている。
よくよく見れば、それは血液であった。
大量の血が、白い衣装を赤く染めていたのだ。
陸遜が流した、血。
広げてみて改めて、咲良が陸遜が負った傷の重さを実感する。


「そんな…、これって…」


咲良は目を疑わずにはいられなかった。
陸遜が着ていたという服なのだが…背中側が縦に大きく、引き裂かれていたのだ。
意図的に破って出来た裂け目には見えない。
一際血がこびりつき、その衝撃を想像することは容易ではないが、陸遜が生きている…それは奇跡でしかないのだと、咲良も強く感じた。


「後ろからばっさり斬られたから、これだけ服が裂けちまったんだろ。まず致命傷は避けられねえ。なのに、陸遜は生きているんだ。俺達が発見した時には、背の傷は塞がっていたんだぜ」

「それは……」

「陸遜、何があった。全て俺に話してくれ。あの日、お前が何を見たのか…」


陸遜は、命を失っていたのかもしれない。
本懐を遂げることもなく、愛する人の身を案じながら、死を待つだけだったのかもしれない。
奇跡を起こしたのは、いったい誰なのか。
陸遜は、記憶に残る惨劇を語り始めた。


「陸家の邸が襲撃された時、私は…小春殿を逃がすことばかり考えておりました。ですが、敵の数は多く、仕舞には火を放たれ、私は小春殿を守りながら戦うことが出来ませんでした」

「陸遜を追い詰める奴なんて、そう滅多に拝めないな。敵の顔は覚えているか?」

「多くは遠呂智兵でしたが、ただ…兵を率いる男…巨大な数珠を持つ、剃髪した男だったのを覚えております。その者の放つ気は凄まじく威圧的で、まるでこの世の者では無いような…」


陸遜達を襲ったのが、巨大な数珠を持つ男と聞き、咲良は息が詰まりそうになった。
咲良には、思い当たる男が居たのだ。
一度思い浮かべてしまえば、他に想像することなど出来ない。

平清盛…、平安の世に生きた一人の英雄。
強い願いを胸に秘め、黄泉から舞い戻った、無双の力を持つ男だ。
遠呂智復活を目論む清盛ならば、この時期に姿を現してもおかしくはないが…、何故あえて陸遜達を狙ったのだろうか。


 

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