失われた輝き



確かに、咲良と周泰には結婚式を行う暇も無かったが、五年も過ぎては新婚と言うのもおこがましい。
咲良は当たり前のように、純白のウエディングドレスに憧れる子供だった。
しかし、三国時代には豪華なケーキも華やかなブーケも存在しないはずだ。
それでも、咲良は幸せだった。
周泰と契りを結び、千春が生まれた今となっては、これ以上望むことは何も無いのだ。
婚約を皆に発表した時のような、小さな宴でも開いてもらえたら、それだけで満足である。


「大喬様のお心遣い、とても嬉しいのですが…、私はご覧の通り平凡ですし、華やかな恰好は似合いませんよ」

「そのようには思いませんが…、では、派手さは抑え、清楚さを追求して作製させていただきますね。きっと、周泰様にも気に入っていただけるでしょう」


自分のためではなく、周泰のために着飾るとなれば、少し意味合いが違ってくる。
お洒落をした咲良を見た周泰が、「綺麗だ」と褒めてくれるのならば……、想像しただけで頬が熱くなってしまい、咲良は恥ずかしさに俯いた。
初々しさなどあって無いようなものなのに、大喬が微笑ましいと笑うので、余計に照れてしまう。


「本当に、落涙様がお幸せそうで良かったです。小喬が、ずっと落涙様のことを心配しておりましたので…」

「小喬様が、私のことを…?」

「この乱世に生まれ、良き伴侶に恵まれれば運があったということでしょう。私も小喬も、政略結婚でありながら素敵な殿方と結ばれることが出来ましたから…」


小喬は、咲良が陸遜に懸想していたことを知り、想い人が居るのならば無理に嫁ぐ必要は無いと、落涙と周泰との婚姻を認めていなかった。
もしかしたら今も、小喬は咲良が不本意な結婚に苦しんでいると思っているのかもしれない。
それはとっくに、過去の話だと言うのに。
次に彼女と顔を合わせたら、「私は幸せです」と心からの気持ちを伝えたいと思うのだ。
幸せを願ってくれた小喬に、感謝したい。


 

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