失われた輝き
「…実は、花嫁衣装を作っていたのです」
咲良は彼女が娘のために手作りしていたという、色鮮やかな花嫁衣装を見ていた。
未完成ではあったが、白と桃色を基調とし、赤のアクセントが入った衣装は、可愛らしい小春によく似合いそうだ。
手先が不器用な咲良には真似出来ないが、愛娘のために何かをしてあげたいと想う気持ちは、きっと大喬と変わらない。
お手製の衣装を纏った娘の晴れ姿を、大喬は何より楽しみにしていただろうに。
涙を流したばかりで少し赤くなっている物憂げな瞳は、やはりどこか寂しげだった。
「祝言の際は、私も小春様のために笛を奏でたいと思います。…本当に久しぶりなので、ちょっと自信が無いのですが…」
「ふふ、落涙様の音曲はいつも素晴らしかったですよ。私も楽しみにしていますね。…ですが…まだ、驚いています。まさか、落涙様が母になられていたとは…」
人形を手に一人遊びをする千春を眺めながら、大喬は素直な感想を口にした。
千春が目を輝かせ、一目見て気に入ったその人形もまた、大喬のお手製である。
咲良は千春が周泰との間に授かった子であることを打ち明け、孫呉を離れて五年が過ぎたことを話した。
遠呂智相手に、特別な子守歌を唄えるほどの楽師が普通では無いことは皆が知っていたはずだが、それでいても信じがたい告白を受け、大喬は明らかに動揺していた。
だが孫策に"阿春"とあだ名を付けてもらったことを話すと、小春との繋がりを感じてか、大喬はこうして、現実味の無い話を受け入れようとしてくれている。
「阿春様が祝言をあげられる時が来ましたら、ぜひ私に衣装を作らせてください」
「大喬様…ありがとうございます。でも、ご迷惑ではありませんか?」
「いいえ、私が作って差し上げたいのです。落涙様には、お世話になりましたので…、宜しければ、落涙様の花嫁衣装もお作りしますよ。まだ、祝言をあげていらっしゃらないのですよね?」
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