失われた輝き
「"たすけて"って…千春にいってた…おねえちゃんのこえ、そっくりなの」
「え……?」
「千春、ずっときこえてたのに…おねえちゃん、ないてたのに、なかないでって…いえなかったよ…」
今にも泣き出しそうな顔をして、千春は茫然とする大喬を見上げるのだ。
小春は江東の二喬と呼ばれた大喬の美貌を受け継ぎ、その姿形は母親にとてもよく似ていた。
しかし、声質は…、二人と親しくしていた咲良には違いがはっきりと分かっていたが、千春は大喬の声を聞いた瞬間、助けを求める小春の声を思い出してしまったのだろう。
千春は咲良よりも早くに、朱い櫛を通して、小春の声を耳にしていた。
姿の見えぬ者の悲鳴に怯えてしまい、"おねえちゃん"に何もしてあげられなかったことを、千春は酷く悔いていたのだ。
「あなたは、小春のために悲しんでくださるのですね…ありがとうございます。小春は、誰より幸せな娘です…」
「おねえちゃん…千春、おねえちゃんにあいたい…いっしょに、あそんでほしいな…」
ついに涙をこぼしてしまった幼子を抱き締めた大喬もまた、陶器のような頬に一筋の涙を流した。
子供の話だからと聞き流したりせず、純粋に小春を想い続けていた千春に、心から感謝をしてくれたのだ。
嗚咽を耐えながら千春を抱く大喬の腕は、弱々しく震えていた。
「大喬様…私達は、助けを求める小春様のお声を聞き、お力になりたくて、此処に来たのです。恐らくですが、私が、小春様が大切にされていた手櫛を持っていたから…」
「落涙様が、小春の声を…?それはまことですか?」
「はい。ですから、小春様はご無事でいらっしゃるはずです。私も全力を尽くしますので、どうか…気を落とされないでください」
この世に生きているのだから、決して希望を捨ててはならない。
気休めでしかないかもしれない、このような言葉で大喬を慰められるとは思えなかったが、大喬は未だ涙を伝わせながらも、微笑んでくれた。
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