失われた輝き



「権から話を聞いているとは思うが、何者かに小春が連れ去られた。陸遜も陸家の奴らも、大きな傷は見えないんだが、皆、なかなか目を覚まさねえし…」

「陸遜様も、此処にいらっしゃるのですか?」

「ああ。陸遜が目覚めるまでは話にならねえから、甘寧はまず、俺が各地で集めた情報を纏めるのを手伝ってくれよ。咲良と阿春は…大喬を慰めてやってくれるか?」


孫策の夫人である大喬もまた、夫と共に遠呂智軍に関する情報を集めていた最中だったのだ。
そして、陸遜と小春の悲劇を目にすることとなった。
娘の不幸を嘆く大喬の傍に居てやってくれ、と孫策は切に願う。
愛する孫策の言葉があってしても、深く傷付いた大喬の心を癒すことは出来なかったのだ。




大喬が使用しているという部屋に案内された咲良は、不安げな顔をする千春の手を引いて、静かに戸を叩いた。
どうぞ、小さな声で返事が戻ってきたので、失礼しますと断ってから、部屋に足を踏み入れる。


「お久しぶりです、大喬様」

「あなたは…落涙様ではありませんか!どうして此処に…」


椅子に座り、何やら裁縫をしていたらしい大喬は、頭を下げる咲良を見ると、驚いた様子で立ち上がった。
彼女はきっと、咲良が故郷へ帰ったことを知らされていない。
だから、姿を眩ませていた咲良が、こうして廬山に現れた理由が分からないのだろう。
孫策にも、大喬にも全てを打ち明けるつもりだが、今少し、彼女と話をしたい。


「孫策様の力になってほしいとの孫権様のご意志を受けて、甘寧さんと一緒にお訪ねしたのです」

「そうでしたか…立ち話も難ですから、どうぞお座りください。其方の可愛らしい方も…」


大喬は穏やかに微笑むと、ぱちぱちと瞬きをする千春にそっと手を差し出す。
孫策には自ら抱き付いた千春だったが、大喬の美しさに圧倒されたのか、彼女の手を取るのを躊躇っているようだった。


「千春、大喬様にご挨拶してくれる?」

「おねえちゃん……?」


咲良の言葉が聞こえているのかいないのか、千春はまるで夢を見ているかのように大喬を瞳に映した。
最初こそ、美しい大喬に見入っているのかと思ったのだが、千春はただ、悲しげに眉を寄せるのだ。
愛する娘を失った大喬の心境を、幼い子供に理解出来るはずがないだろうに。
両手で大喬の白い手に触れた千春は、思いも寄らぬ言葉を口にする。


 

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