尊い絆を繋ぐ



「…咲良…」

「はい…」

「…愛している…やはり俺には…咲良しか考えられない…」


五年も、咲良は娘と二人で過ごしていた。
誰かのことを愛する余裕が無かったのも確かだが、咲良が周泰だけを想い続けていたこともまた、事実である。
五年とひと月では、比べものにならないようにも思えるが、周泰もまた、咲良と同じぐらいに苦しみ、二度と再会出来ないはずであった妻を、愛し続けてくれたのだ。
愛の言葉はどこまでも甘く響き、咲良は周泰の頬に指を触れさせて…小さく笑った。


「幼平様…私は、幼平様にお会いしたら駄目になってしまうと思っていました。だけど、もし、私が役目を果たして再び故郷へ帰ることになっても…心が壊れることは、ありません」


彼の愛情は、本物だ。
何があっても、周泰の愛が潰えることはない。
もう一度、離れ離れになったとしても…次こそは、咲良は泣いたりしないだろう。


「離しはしない」

「よ、幼平様…」

「傍に居ろ。俺に、守らせてくれ」


普段の、ゆっくりした話し方とはまるで違う…はっきりと、真剣な表情で想いを告げてくる周泰に驚いた咲良だが、嬉しくて涙が滲んだ。
私だって傍に居たいけれど、"ずっと"は保証されていないのだ。
これほど愛されているのに、彼に生涯を捧げたいと思っても…自信を持って言えない。

苦しげに眉をひそめた咲良の、その想いが周泰には分かるのだろう、彼は咲良の涙の浮かぶ目尻に口付け、そして…、唇を塞いた。
先程口にした、甘辛い酒の香りがする。
柔らかく重ねられた彼の熱を感じ、咲良はそっと目を閉じた。


(…好き…私、幼平様が…大好き…ずっと、此処に居たい…)


溢れ出す涙と共に、溢れ出した想い。
好きすぎて…愛おしくて、胸が苦しい。
触れた唇の熱が離れていくことさえ寂しくて…咲良は周泰の頬に唇を寄せる。
くすぐったそうにする周泰が可愛く思えて、咲良は涙を流しながらも微笑み、彼の手を握りしめた。


 

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