尊い絆を繋ぐ



「嘘だろ!?あの陸遜が簡単にやられるはずがねえ!何かの間違いだ、そうだよな、凌統!」

「馬鹿、孫策殿が冗談を書いて寄越すわけが無いっつの。だけど…俺だって、軍師殿が負けただなんて想像もしたくない」


書状から目を離した甘寧と凌統は、友人である陸遜を想い、揃って悔しげに唇を噛みしめる。
相手が悪かったとしても、陸遜が負けたなどと、何があっても認めたくない…それは咲良も同じである。


「落涙…お前は小春の救いを求める声に導かれ、再びこの世に舞い戻ったのかも知れぬな」

「孫権様…、私は、陸遜様と小春様をお助けしたいです。小春様に呼ばれたのなら、私の新たな役目は、二人をお救いする事なのかもしれません」


咲良は真っ直ぐ孫権を見つめ、ふつふつと湧き上がる切なる想いを打ち明けた。
友を救い、幸せを取り戻す…きっとそれが、落涙に与えられた指命なのだろう。
奏者として子守歌を奏でるのではなく、友のため、何か出来ることがあるならば…また、一から頑張ってみても良いのではないか。


「うむ。恐らくは遠呂智の残党の仕業であろうが…情報が少なすぎる。此処で考えていても埒が明かぬな。落涙、お前はすぐに兄上の元に向かい、力を貸してくれ」

「はい!あ…あの…、ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、娘を一緒に連れていきたいのです」

「構わんだろう。では甘寧、落涙に付き添ってはくれぬか?明日にでも出立し、一刻も早く兄上と合流してほしい」

「あ?俺が?」


落涙と娘を孫策の元へ送り届ける…、他にも適役は居たであろうが、当然のように咲良の同行者に指名された甘寧は、目を丸くして驚いていた。
千春は甘寧に懐いているし、彼が一緒に来てくれるならば、とても心強い。
しかし、孫権直々の命であれ、咲良を妻とする周泰はあまり面白く無さそうだ。
咲良自身、愛する人と再会したばかりだと言うのに、こんなにも早く別れなければならないのかと思うと、少し切ない。


「凌統や周泰の任は既に決めてあったのでな、帰還したばかりで余裕のある甘寧に頼るほかあるまい。…周泰、そう拗ねるな。今宵は落涙と二人、ゆっくりと過ごすと良いだろう。案ずることは無い、千春は私が面倒を見てやるぞ」

「そんな!孫権様のお手を煩わせるなんて、とんでもありません!」

「落涙さん、それなら俺が千春ちゃんを見ていてあげるよ」


いくら義父であっても、皇帝である孫権の言葉に甘えることは恐れ多く、到底受け入れられなかった。
それに、千春が生まれてこの方、一緒に眠らなかったことは一度だって無いのだ。
夫を選んだことで娘を不安がらせたくないと思うが、かと言って、夫婦を二人きりにしてやろうという孫権の心遣いを無碍に断ることも出来ず、あわあわと慌てる咲良を見て苦笑した凌統がすかさず助け船を出してくれる。
孫権が抱いていた千春を代わりに抱き上げた凌統は、優しげに微笑み、娘の黒髪を撫でた。


 

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