尊い絆を繋ぐ



「おじちゃん…だいじょうぶ?」

「ああ、私は大丈夫だぞ千春。お前は本当に優しい娘だな」


心配そうに見上げる千春に微笑みかける孫権だが、その笑顔に力は無かった。
孫権の表情が変わったことに一同は驚くが、常に主の傍に居た周泰でさえ、その理由を察すことは出来なかった。


「殿、姫様が何ですって?気になることでもあるんですか?」

「気になること…か。凌統、お前もよく知っているだろう。遠呂智の残党討伐のため、甘寧や蘭丸などを各地へ送り込んでていた。遠呂智軍だけではない、董卓や伊達政宗、そして曹操もが世の混乱に乗じて蜂起している。直に、お前達にはそれぞれ出陣してもらうことになるだろう」


遠呂智が倒れた後も悪は潰えず、世界には少なからず闇が残っていた。
甘寧が咲良の窮地に駆け付けることが出来たのも、残党討伐や被害状況の調査のために遠征していたからだ。
孫権は凌統の質問に答えると、散々躊躇った挙げ句、ついに胸の内を明かした。


「先日、各地の調査に赴いていた兄上から文が届けられたのだ。内密に、とのことだったので誰にも語らずにいたが、落涙と小春に繋がりがあるのならば、話さない訳にもいかんな」


孫権は懐から折り畳まれた書状を取り出すと、それを凌統に手渡した。
書状に目を通す凌統と、横から覗き込む甘寧。
咲良と周泰は、直接孫権から事実を聞くこととなった。


「偶々、兄上は陸家の邸に立ち寄り、様子を見に行かれたそうだ。しかし…、邸は何者かに襲撃され、激しく炎上していたと言うのだ」

「襲撃!?そ、そんな…じゃあ陸遜様や、小春様は…」

「奇跡的に、死者は出なかったという。幸いであれ、誰一人として命を奪われていないというのは異常なことだな。陸遜及び多くの者は救出されたが意識不明、そして…生存者の証言では、小春ただ一人が連れ去られてしまったらしい」


孫権の口から、あまりに衝撃的な事実を聞かされ、咲良は呼吸が止まってしまいそうになる。
陸遜が深く傷付き、小春の行方も知れない。
ささやかながら、小さな幸せを得て、漸く契りを結べるはずだったのに、愛し合う二人が、離れ離れになっていると言うのだ。

『お助けください』と小春の悲痛な叫び声が、咲良の脳裏によぎった。
何者かに誘拐された小春は、傷付いた陸遜の姿も目にしていたはずだ。
愛する人を残し、非道な輩に連れ去られた彼女の心を想うと、酷く胸が痛んだ。
どうすることも出来なかった小春は…遠く離れた未来に生きる咲良に、必死に助けを求めていたのかもしれない。
目を伏せる咲良の肩を抱く周泰もまた、言葉にはしないが、陸遜の不幸を嘆き悲しんでいるかのようだった。


 

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