尊い絆を繋ぐ



周泰と再会したその夜、咲良は千春を連れて孫権に謁見した。
甘寧や凌統も事情を説明するために同行し、これまでの経緯や、咲良の隠し事など、全てを打ち明けた。


「よく似ているとは思っていたが、まさか本当にお前達の娘だったとはな!」


倭国の戦国時代よりももっと未来に生まれた落涙は、奏者としての役目を果たし、五年の時を経て舞い戻ってきた。

複雑で、信じがたい咲良の話を一通り聞き終えた孫権だが、まるで疑うこともなく、千春を抱き上げて笑う。
千春もうっとりと幸せそうな表情で孫権の顔を…蒼い色をした美しい瞳を見つめていた。
出会って間もない二人の仲の良い姿に、咲良は漸く肩の荷を降ろすことが出来た。


「落涙よ、よく戻ってきてくれたな。お前が姿を消してから、周泰は魂が抜けたようだった。それはもう、何もないところで派手に転んでしまうぐらいにな!」

「…孫権様…」

「例えだ、例え!甘寧や凌統も、落涙を保護してくれたのだな。私から改めて礼を言おう」


目を細め、嬉しそうに語る孫権の言葉に、静かに凌統は拱手する。
甘寧は腕を組み、ふてぶてしい態度を取っているが、凌統に睨まれて渋々頭を下げた。

咲良もまた、孫権が歓迎してくれたことに心から感謝をしていた。
黙って居なくなったのに、孫権は秘密だらけだった咲良のことを咎めようともしない。
彼は仮にも咲良の"義父"であり、千春の"義祖父"である。

孫権と、そして周泰とも…もしかしたら、本当の家族になれるのかもしれない。
故郷に帰ってからは、考えないようにしていたが、正直なところはずっと、望んでいたことだった。
だが、咲良はまだ、何故自分が此処に居るのかも分からないのだ。
孫権も同じく疑問を抱いていたようで、千春の髪を撫でながらも、真面目な顔をして咲良に問う。


「して、落涙。お前は何故戻った?兄上や周瑜の話によれば、お前は二度と孫呉の地は踏めぬはずであった」

「それは…私にも分かりません。ですが、此方に来る前に、私の名を呼ぶ小春様のお声を耳にしたのです。もしかしたら、小春様なら何かご存知かもしれません」

「なんと、小春が…そうであったか…」


咲良が小春の声を聞き間違えるはずがない。
落涙の名を呼ぶ、愛らしい娘の悲痛な声。
だが、真実を確かめようにも、現在小春は建業城には居ないのだ。
婚儀の準備のために、陸遜の故郷へ共に向かったと言うが、帰還はいつ頃になるのかと咲良が問おうとした途端、孫権は苦しげに眉を寄せ、深く溜め息を漏らしていた。


 

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