春への祝福
「おじちゃん、千春のパパになってくれるの?ママと千春と、ずっといっしょに、いてくれる…?」
「…ああ…千春も咲良も…俺が守る…」
「ほんとに…?パパ…、あのね、パパにおねがいがあるの!千春、パパとゆうえんちにいきたいな。おゆうぎかいも、みにきてほしいし…、パパがいたら、クリスマスももっとたのしいよ。これから、ママとさんにんで、いっぱいあそんでほしいの。それから…えっと…」
千春は心なしか頬を赤く染め、周泰を見上げ、必死になって訴えかけた。
周泰には意味が通じない単語もあるだろう。
此方の時代では、千春の望みの多くが叶えられない。
だが、一生懸命想いを伝えようとする娘の声を聞き、周泰は強く抱き締め返すことで応えた。
「…パパ…、ママのこと、すき?」
「…ああ…愛している…千春のこともだ…」
「えへへ…千春も!パパがだいすきだよ!」
幸せに満ちた笑顔。
求めていたものが、此処にはある。
微笑み合う父と娘の姿を見て、感極まった咲良は堪えきれずに嗚咽を零したが、それまで黙って様子を見守っていてくれた凌統が、手巾を差し出してくれた。
小さく礼を言い、こっそりと涙を拭った咲良だが、次の千春の言葉に、涙が引っ込んでしまう。
「パパ、千春ね、おおきくなったら、甘寧おにいちゃんとけっこんするね!」
「……、」
娘の唐突な一言に、周泰の顔色が変わる。
千春はただ、自分の好きな人について、父にも伝えたいと思ったのだろう。
だが、無邪気な発言を本気にしてしまった周泰は、とてつもなく恐ろしい形相で甘寧を睨み付けた。
娘に手を出したら許さん…、と強い念を込めて。
「な、何だってんだよ!俺を睨むんじゃねぇ!」
このような些細なことで殺意を向けられては、流石の甘寧もたまらないだろう。
だが、優しいお兄ちゃんとなってしまった甘寧は、千春の純な想いを否定することは出来ないようだ。
周泰と甘寧の間に、またもや溝が出来てしまった。
しかし、こうして良き父親となってくれた周泰のことが、咲良には可愛く思えて仕方がない。
甘寧の反応を見て笑い声を押し殺していた凌統と顔を見合わせ、咲良はくすくすと笑った。
END
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