小さな愛し子



「どうしたの、千春?お庭で遊んでいたんでしょう?」

「だってぇ、ひとりじゃつまんないんだもん!千春、ママのおてつだいしたいな」

「ありがとう。じゃあ、一緒に洗濯物畳んでくれる?」

「うんっ!」


かつて咲良が甘寧に貰った鈴は、この少女が愛用するポシェットに括り付けられていた。
咲良をママと呼び、むぎゅっ、と飛びついてくるのは、まだ幼い顔立ちの女の子だ。
くりくりとした瞳が可愛らしい、"千春"と名付けられたその少女は、咲良の愛する一人娘である。
…勿論、周泰との間に授かった子だ。


「千春……」

「なあに、ママ?」

「ううん…何でもないよ。お手伝い宜しくね」


子供とは、実に不思議なものだ。
母親が不安そうな顔をしていると、その悲しみに気が付いて、傍に寄り添い痛みを癒やしてくれる。

…咲良が現代に帰ってから数ヶ月後。
悠生を失ったことにより精神的に不安定になっていた咲良だが、体調が一向に回復せず、母親に付き添われて病院で看てもらうこととなった。
そして分かった、咲良の妊娠…、
関係を持った男は、周泰ただ一人である。
彼と深く愛し合った幸せな時を、忘れるはずがない。

だが、相手は誰なのかと問い詰める母親に、周泰の名を明かすことは出来なかった。
彼はこの世の人ではない…ゲームによく似たもう一つの世界に生きる存在だから。
もう二度と、顔を合わせることが出来ないのだから。

それでも、咲良は子供を産みたいと思った。
まだ高校生で、しかも夫は存在しない。
世間の目だって気になるだろう。
何より、まだまだ未来のある咲良の人生が此処で決してしまうことが、両親の気掛かりだったようだ。
当初は大反対されたが、咲良は土下座をして懇願した。
愛する人との間に授かった子を堕胎するぐらいなら死んだ方が良い、と泣きながら願い続けた。

両親は、悠生のことを覚えてはいなくとも、我が子を失った悲しみは胸の中に生きていたらしい。
現に今でも、元気に生まれた孫の千春を、実の子のように可愛がってくれている。
両親の助けがあってこそ、咲良は千春を育てながら生きることが出来るのだ。


 

[ 2/69 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -