春への祝福



「ママっ!おかえりなさい!おにいちゃんたちに、あそんでもらったよ!あれ…ママ、どうしたの?」

「千春……、」

「ないてるの…?」


ぱたぱたと駆け寄ってきた千春だが、咲良の頬が濡れていることに気付き、娘は何事かと心配そうに顔をしかめる。
だけどこれは、悲しい涙ではないのだ。
咲良は微笑んで、強く千春を抱き締めた。


「嬉しい時にも、涙が溢れることがあるんだよ?」

「じゃあ、ママは…うれしくて、ないていたの?」

「千春にね…会わせたい人がいるの」


大きな瞳を瞬かせ、千春は咲良の後ろに立っていた周泰を初めて視界に入れた。
人より背の高い周泰は威圧感があるかもしれないが、千春はきょとんとするだけで、怯えることはなかった。


「おそとであった、おじちゃん?」

「…千春…?」


泣かれはしまいかと、周泰は様子を見ながらゆっくりと千春を抱き上げた。
壊れ物を扱うように、慎重に頭を撫でようとする姿はぎこちないが、少しでも柔らかい表情を見せようとする。
父としてどう振る舞うべきかと悩み、戸惑う証だろうか。
千春は元々、人見知りをする子ではないが、一見強面の周泰に見つめられても、にっこりと笑ってみせる。


「よかったぁ…おじちゃん、げんきになったんだね!」

「……?」

「千春、かなしかったよ。おじちゃん…千春のことみて、くるしそうなかお、したんだもん。だから、わらってくれてうれしい!」


凌統とのお出掛けの際の話であろう。
城下で出会ったときは互いに何も知らなかったから、周泰は違和感を覚え、それに対し千春は恐怖を感じてしまったのだ。
頬を膨らませて恨めしそうに言った後、再び微笑む千春の髪を撫でてやりながら、周泰は娘を愛おしげに眺めていた。
出会ったばかり、それでいて周泰の中には、千春への確かな愛情が生まれたのだ。


「…千春…俺は…お前の父だ…」


しっかりと目を見つめて、周泰は告げる。
それは、求めていた言葉…、しかしあまりに唐突で、動揺した千春はとっさに、咲良の方を見る。
もう、遠慮も、我慢だってしなくて良いのだ。
思い切り抱き締めてもらえば良い。

咲良が頷いて見せると、千春は躊躇いながらも、父と名乗り出た男の頬に触れた。
ぺたぺたと小さな手で、周泰の目元の傷を撫でた千春は、たまらなくなったのだろう、泣きそうな顔をして周泰にしがみついた。


 

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