春への祝福



(ああ…幼平様…!)


どくん、と胸が高鳴った。
毎夜のように夢に見ていた、誰よりも想い続けていたその人が…、周泰が、すぐ其処に居るのだ。

彼は何も、変わってはいなかった。
息を呑み、呆然と咲良を見ている周泰は、思い出のままの姿で生きている。
予告も何も無く引き合わされたと言うのに、咲良の心が乱れることはなかった。
むしろ、彼への愛しさが溢れそうで…気を抜いたら、喜びのあまり泣いてしまいそうだ。


「ごめん、落涙さん。甘寧に黙ってろって頼まれてさ…千春ちゃんは俺達が見てるから、ゆっくり話をしてよ」

「凌統さん…甘寧さんも…ありがとうございます。千春をお願いします」

「けっ!これきりだぜ、落涙。ま、千春とはこれからも遊んでやるけどよ」


凌統は相変わらず優しく、反対に甘寧は悪態をつくが、その表情は何故か、咲良の目には清々しく見えた。
周泰と二人きりで話が出来るようにと、彼らは状況が呑み込めずにいる千春を連れ、部屋を出ていく。

ぱたん、と静かに戸が閉められた。
咲良は改めて、しっかりと周泰を見つめる。
彼はまだ、咲良が現実のものと思えないのか、立ち尽くしたまま硬直し、微動だにしない。
…仕方がないだろう、あんなに泣いて、二度と戻らないと言ったくせに、平然と此処に存在して居るのだから。


「お久しぶりです、幼平様」

「…咲良…?」

「はい…咲良です…」


周泰に名を呼ばれた。
ただそれだけのことなのに、咲良の瞳にはじわりと涙が浮かぶ。
周泰と顔を合わせることに、不安が無かった訳ではない。
だけど、やっぱり…会いたかったのだ。
こんなに早く泣いてはいけないと、咲良は唇を結んで嗚咽をこらえた。

だが…、泣き虫な咲良よりも周泰の方が、もっと泣きそうな顔をしていた。


「…何故ですか…貴女はもう会えぬと…、俺がどれほど…貴女を想っていたか…!」

「ごめんなさい…。すぐに会いに行くべきでした。でも…私にも分からないんです。私は確かに故郷へ帰り…二度と、戻らないつもりでした。それなのに私は戻ってきてしまった…理由も…何も分からないまま…」


思わず声を荒げる周泰に、咲良は申し訳なさから俯き、少しずつではあったが胸の内を語り始めた。
信じてもらえるかは分からないが、伝えなくてはならない。
咲良がこれまで何を想って生きてきたか…、周泰にだけは知っていてほしかった。


 

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