春への祝福



咲良は凌統が目を合わせてくれないことを不思議に思っていた。

こちらの世界へ来てからというもの、自由に外で遊ばせることも叶わず、千春には何日も我慢をさせ続けていた。
現代では当たり前だった常識がほとんど通用しない、古い時代。
咲良の置かれた状況が理解出来るはずもないのに、千春は大した我が儘も言わず、生活環境が大きく変わったことで怖がったり泣いたりもせず、世話になっている甘寧の邸の中で日々を大人しく過ごしていた。

そのような娘を不敏に思ってか、凌統は快く散歩に連れて行ってくれた。
お土産と言って千春から手渡された菓子や可愛らしい小物を見て、凌統が相当気を使ってくれたことに感謝をしたのだ。
だが、凌統はどことなくそわそわしているし、甘寧は部屋を出たきり戻ってこないし…違和感を持っても仕方がないだろう。


「ママあのね、千春、おそとですてきなひとにあったの!すごくきれいなおめめのおじちゃん!」


咲良は甘えるように抱き着いて来る千春の髪を撫でながら、城下町の様子を楽しげに語る娘の話を聞いていた。
綺麗な目をした男性に会ったと、千春は一生懸命その人について教えてくれる。
きらきらして宝石みたいに素敵、と子供らしい言葉で繰り返して口にするので、いつか会ってみたいものだと咲良も素直に思ったのである。


「だけどね…千春、すこしかなしかったの」

「どうして?なにか嫌なことでもあったの?」

「ちがうの…でもね…」


急に、千春は悲しげに眉をひそめてしまった。
頬を寄せて、不安を取り除くように髪を撫でながら目を見つめていたら、ばたん!がたん!と響き渡った乱暴な物音に、千春共々肩を跳ねさせた。


「落涙、あんたに客だぜ!」

「甘寧さん!?お、お客さん…って…?」


雑に戸を開け突入してきた甘寧だが、その勢いの良さに圧倒されて、千春は目を白黒させている。
だが甘寧はぽかんとしている千春を抱き上げると、にかっと笑顔を見せていた。
千春を安心させるには十分で、彼に恋する娘はぎゅっとしがみつくと、満面の笑みを浮かべる。


「甘寧おにいちゃん、おかえりなさい!千春ね、おにいちゃんにおみやげがあるの!」

「そうか、ありがとよ。だがあんたの母さんに会いに客が来てるんだ。ちっと違う部屋で待っていような。俺と凌統が一緒に居れば寂しくないだろ?」


千春は首を傾げていたが、"一緒"という言葉のおかげで寂しさを覚えることはなく、素直に頷いていた。
だが、勝手に話を進められてしまい、咲良は完全に置いてきぼりである。
凌統は深く溜め息を漏らしていたが…、開け放たれていた戸から遅れて姿を現した男を見て、咲良はその瞬間に、全てを理解した。


 

[ 27/69 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -