熱情の使者



「…千春を…俺の養女としたい…」

「あ?養女…って、正気か?」

「…例え…落涙様と何の関係が無くとも…俺は千春を…育ててやりたい…初めて姿を見た時から…俺は千春を守らなければと思った…落涙様に似ているから…?いや…何故かは分からないが…」


僅かに迷いは残ってはいるが、強い決意を秘めた瞳を見た。
落涙の娘だと確信を持っている訳ではあるまい。
それなのに、周泰は千春を我が子として育てたいのだという。
落涙と子を授かることが出来なかったと後悔しているから…、だから顔が似ている千春を、落涙の娘として扱うつもりなのだろう。

落涙は五年もの間、周泰だけを想い続けていた。
この男が悩み苦しんだのは、たったのひと月である。
しかし、同じ想いを抱いた甘寧には分かる。
周泰の愛情は今も変わらず、これからも、落涙だけに向けられていくのだと。


「あんたは…もう誰も娶らないつもりか?」

「…ああ…必要無い…。そう言う…お前は…」

「……、俺はきっと、どんな女だって代わりになる。落涙の代わりに…抱いてやれるさ。だがあんたは、落涙じゃなきゃ駄目だって言うんだろ?」


それまでの緊張を解き、甘寧は静かに笑って見せた。
驚く周泰を無視し、甘寧は確かな答えを出す。
こいつは、本気だと。
この男でなければ、落涙と千春を幸せには出来ないのだと。

こうやって面と向き合って言葉を交わしたのは初めてかもしれないが、甘寧はやっと、周泰を落涙の夫として認めることが出来た。
だが、やはり気に食わない。
だから、最後まで教えてやらないのだ。
好きな女の幸せは願うが、恋敵の人生なんて知ったことではない。


「あんた、もう"落涙"って呼ぶんじゃねえよ。あんたの妻は"咲良"ってんだろ?」

「……、」

「…来いよ、千春に会わせてやる」


周泰を、千春の元へ導くこと…それが、甘寧が愛した楽師の少女に出来る、精一杯の愛情表現であった。



END

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