愛を願う娘



咲良の親友・貂蝉の口添えもあり、呂布が悪しき想いで咲良を連れ去ったのではないと、孫権も理解した。

世界は救われたが、落涙が犠牲となった。
大地に光が戻っても、周泰の心を照らし続けた愛しい人は、自らの意志で闇に消えた。
咲良を失うことになると分かっていて、周泰が人知れず妻を手放す決意をしたことを知った孫権は、表情に乏しい周泰の代わりに、ひっそりと涙を流したのだ。
…絶対に、守らなければならないと思った。
この心優しい主君に、己の人生全てを捧げ、尽くさねばならないと。
咲良を失い、不自然な穴が空いた周泰の心を癒す者は、孫権のみだったのだから。


「この先、落涙より優れた女が現れることはまず無いだろう。だが、落涙はお前の幸せを望んでいるはずだ。早く新たな妻を迎えて、子を成せ」

「……、」

「周泰!いつまでも落涙の幻に捕らわれていてはいかんぞ!」


孫権の言葉は何一つ間違ってはいない。
だが直後、「千春のことが気になるならば、もう一度会いに行ってはっきりさせてはどうか」と提案され、周泰は本当にそんなことをしても良いのかと、孫権の顔色をうかがった。
捕らわれるな、ときつく諭されたばかりなのに。
出会ったばかりの娘に"宝石のようだ"とたとえられた美しい瞳が、真っ直ぐ周泰を見つめている。


「お前が千春の父親になる気があるならば、引き取って養女にすれば良い。凌統に事実を聞けば、お前もすっきりするだろう」


新たな妻など…いくら孫権に望まれても、周泰は咲良以外の女を妻に迎える気はさらさら無かった。
だが孫権は、落涙ばかりに拘る周泰に諦めを付けさせるために、千春に会いに行くことを勧めたのだ。
咲良はもう、この世に存在していないのだと、理解させるために。


(…俺には…咲良だけだ…これからも…どんなことがあろうとも…)


自分でも嫌になるほど、諦めが悪いのだ。

咲良によく似た千春を、養女とする。
もしかしたら咲良と血が繋がっているやもしれないのだ、ならば、引き取って我が子として育ててやりたい。

父親が欲しいと言うのならば、その願いを、叶えてやろうと思う。
咲良との子を授かることが叶わなかった(と思い込んでいる)周泰が唯一出来る、罪滅ぼしのつもりだった。



END

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