愛を願う娘



「テレビのドラマみたい…」

「……?」

「千春ね、デパートのね、おおきいテレビでみたんだよ。がいこくのドラマ…えいがかな…?でも、すごくにてるの…」


ふとした呟きの意味も分からず、凌統の方こそ笑顔を強ばらせてしまう。
千春は時折、こういった不思議な単語を口にするのだが、それは故郷の言葉であると、落涙が簡単に意味を説明をしてくれたので問題は無かった。

しかし、今は説明を求められる状況では無い。
千春は周囲を見渡しては、今にも泣きそうな顔をしているのだ。
と言っても、商いをする人々で賑わっているだけで、何の変哲もない日常の光景なのだが…


「ママ、おうちにかえらないのかな…?」

「千春ちゃんは、家に帰れなくて寂しいのかな?」

「ううん!千春、さみしくないよ。だってママがいるもん!ママといっしょなら、どこでもたのしいんだよ」


ママ、と母親を呼ぶ千春の目は明るく輝いていた。
千春は落涙のことが誰よりも大好きなようだ。
凌統に母親のことを語る千春は、これまで沈んでいたのが信じられないぐらい、可愛らしい笑みを浮かべている。
これだ、と凌統は漸く千春の心を開く術を見つけた。


「じゃあ、ママさんと…甘寧にお土産を買っていこうな?好きなものを選んで良いからさ」

「ほんとう?千春、うれしい!ありがとう、凌統おにいちゃん」


そう、この笑顔が見たかったのだ。
やっと、彼女の子供らしさに触れることが出来た。
母親似で良かったな、と心底思うが、絶対に口にはしない。

ママこと落涙に感謝しながら、凌統は千春を連れて店を見て回った。
その時、果物屋の前で買い物をしていた女性が誤って箱を倒し、中身をぶちまけてしまった。
丸っこい林檎や梨が転がっていくのを見た千春は、許可を求めるように凌統の顔を見上げる。
考えを察した凌統が頷くと、千春はにこりと笑って手を離し、駆け出していった。
自然と手伝いをしようと思うのも、落涙の教えによるものなのだろう。
感心した凌統も後に続き、身を屈めて果物を拾ってやる。
すると、目の前を影が覆い、凌統は何の気も無しに顔を上げたのだが…


 

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