愛を願う娘



(俺、もしかして嫌われているんじゃない…?)


安請け合いはするものではないと、落涙の娘を連れて城下を歩く凌統は、何度目か分からない溜め息を漏らした。
不安げに見上げてくる少女の手を握り、凌統は安心させるように笑ってみせる。
しかし娘は子供らしからぬ気遣いを見せ、城下に赴いているというのにはしゃいだり駆け出したりはせず、じっと凌統の手を握り大人しくしているのだ。
緊張したように唇を結び、ほとんど喋ろうともしない。
やはり甘寧でなければ駄目なのだろうかと、凌統は肩を落とした。


変わり者で不思議な人だとは常々思っていたことだが、落涙は凌統にとっても大切な友人である。
甘寧ほどではないが、凌統も彼女に好感を持っていた。

古志城の戦いの後、行方不明になっていた落涙は、なんと子連れで甘寧に拾われた。
酷く困惑していた彼女から、複雑な事情を語られてしまったのだ、友人として力になってやりたいと思うのは当然であろう。

甘寧の邸で暮らし始めた落涙は、周囲の者に頼み込んででも雑用をこなすようになっていた。
周泰将軍の夫人であった落涙が、甘寧の元に居ることは邸内の数少ない者しか知らされていなかったが、使用人紛いの行いをさせる訳にはいかないと慌てた侍女が止めようとするも、お世話になっているのだから働かせてほしいのだと、逆に申し訳なさそうな顔をするのだ。
そのように謙虚で慎ましやかな人柄を、甘寧は好いているのだろう。

落涙には千春という子供がおり、その世話もしなければならないから、結果的に彼女は一日中働きっぱなしとなる。
見かねた凌統が娘の世話を買って出たのだが、落涙と二人きりになろうと調子に乗った甘寧が、千春を連れて城下へ行くことを勧めたのだ。
近頃は毎日のように甘寧の邸に入り浸っていた凌統が、ここ数日の様子を見た限りでは、千春は何故か甘寧に懸想しているようだが…、甘寧は娘の気持ちを知っていて追い出そうとしているのだから、酷い男である。


「千春ちゃん、俺と一緒じゃ楽しくないかい?」

「……、」


ぶんぶんと首を横に振る千春だが、そのつぶらな瞳は不安に満ち満ちている。
落涙や甘寧と話すときは愛らしい笑顔を見せていたのに、何故であろうか。


 

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