迷い込む花びら



「本当に、ありがとうございました…甘寧さんが居なかったら、どうなっていたことか…」

「べ、別に礼なんて必要ねえよ。鈴の音がしたから様子を見に来たまでだ。まさかあんたが居るなんてな」


咲良に抱き締められたまま、穴が空くほど"鈴のお兄ちゃん"を見上げる千春の視線が気になるのか、甘寧は居心地が悪そうだったが、思い立ったように口を開いた。


「あんた、今まで何してたんだ?遠呂智を倒したってのに、ひと月も姿を見せないなんてよ」

「え……?ひと月…ですか?」


何かの間違いかと思わず聞き返したが、甘寧も何がおかしいのかと首を傾げる。
冗談を言っているようには思えなかった。
咲良が現代で五年の時を過ごしていた間、此方では、たったのひと月しか過ぎていなかったと言うことだろうか。
よくよく思えば甘寧も、記憶と何も変わらないし、年を重ねたようには見えない。
歴史の流れから外れていた咲良だけが、一人で先に進んでしまったらしい。



甘寧は孫権から遠呂智軍の残党狩りを命じられ、水軍を率いて川を下っていたが、己の船の修理に用いる部品を購入するため、港町をふらついていたそうだ。
そこで、偶然咲良を発見したのだという。
この地は建業からは少し離れているようだが、確かに此処は、三国と戦国が融合された世界なのだ。

成り行きで船に乗せてもらった咲良は、甘寧と共に、船の先端部に立っていた。
頬に当たる風は少し冷たいが、視界に広がる山河の景色は素晴らしく、いつまでも眺めていたくなってしまう。
甘寧の鈴と、千春のポシェットに再び括りつけられた鈴が、心地よい音を聞かせてくれる。


「すみません、甘寧さん…何から何まで…」


咲良は泣き疲れて眠ってしまった千春を抱く甘寧に、何度も頭を下げた。
千春はすっかり甘寧が気に入ったらしく、船を見せられた頃には抱っこをせがむぐらいに心を許していた。
快く応じてくれた甘寧だが、流石に甘えすぎではないかと咲良は心配していたのだ。


 

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