姫様の夢 その5
「あの…幸村様?」
混乱していたせいで勢い余って転んでしまったらしく、幸村様は地にうずくまっていた。
可哀想なぐらい顔が真っ赤だ。
「そ、某は、桜殿の部屋で…何を…!」
「幸村様、昨夜はとても酔っていましたから……」
「くっ…この幸村一生の不覚!お館様に顔向けが出来ぬうぅ!!」
拳を地面に叩きつけ、絶叫する幸村様。
そんなにショックだった?
オレは男同士で眠るのに何の抵抗もないけど、幸村様からしたら年の近い姫様と一緒に寝ていた訳だからな。
笑うところじゃないけど…笑ったら失礼だけど、ぶふふっと噴き出してしまった。
「…桜殿?」
「大丈夫ですよ。何もありませんでしたし、幸村様なら安心ですから」
「っ……」
笑いながら言えば、幸村様はさらに顔をボボッと赤くして、恥ずかしそうに俯いてしまった。
照れてるんだ、可愛いじゃないか。
こんなに純情な人、現代でも貴重だ。
「朝から騒がしいな…真田が暴れているのか?」
「政宗殿!申し訳ない…某…暫し反省するでござる。うおぉお館様ぁああ!!」
「真田!?」
騒ぎを聞きつけてやって来た政宗様に対し、きちんと挨拶もせず、幸村様は叫びながら、一瞬にして視界から消えた。
あ…嵐が去った。
「真田はいったい何があったんだ?」
「わ…分かりません」
「……、アンタ…」
じっ、と政宗様はオレを見下ろしてくる。
うう…、オレも逃げ出したい。
着替えもまだだったんだ、寝起きの桜をあまり見せたくない。
それに…あの夢の後だし、政宗様の顔が直視出来ない。
独眼竜…目が一つしか無い?
片方は、病気に蝕まれてしまったから?
だから政宗様は眼帯をつけていたんだ。
「まさかとは思うが、真田に泣かされたのか?」
「え?」
そうだ、泣いたんだっけオレ!
涙が頬に流れた痕は残っていたし、目も赤くなっているかもしれない。
幸村様…自分のせいで桜が泣いたって思い込んでないといいけど…絶対勘違いしたよな。
「いえ、夢見が…悪くて」
「聞いてやる。話せ」
「…結構です」
話せるわけないだろ!
確かに悪夢は他人に話した方が良いだろうけど、その内容があろうことか政宗様に関することなんだよ!
「俺の命令が聞けねぇってか?」
「ひっ、脅迫しないでくださいよ!そこまで心配されるようなことじゃないので…」
「OK…今日は城下を案内してやるよ。着替えてこい」
…貴方に言えるはずがない。
政宗様はオレに優しくしてくれるけど、桜のことを、今も氷だと思っているんだろ?
そんな奴には…意地でも言ってやらないから!
END
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