姫様の夢 その5
「人の心は脆い故に、人は怖れを抱く。生きとし生ける者ほど恐ろしいものは他に存在しない」
「桜が他人と距離を置いたのは…人の目が怖かったからか…?」
「それもあるが、人は必ず死に行く運命にあるだろう。辛く苦しい別れがあるのならば、初めから関わらない方が良い。私は間違っているか?」
「……分かんない」
今は、良い返事が思い付かない。
政宗様は、心に深い傷を負っていた。
母親と出会わなければ、なんて矛盾したことを言ってしまったら、政宗様はこの世にいない。
ずっと、オレは出会いを大切にしようと思って生きてきた。
家族、友達…、この時代での出会いも、意味があるものだと。
だから沢山友達を作って、毎日楽しく生きていければ、それで良かったんだ。
その先に別れがあることを、忘れていた。
オレは別れの辛さをよく知っていたはずなのに。
またあんな想いをするぐらいなら、桜の考えのように、誰とも関わりを持たない方が良い…?
一人で生きていくのが、自分を守る手段?
(分かんないよ!もう…分かりたくもない)
桜は違う、凍ってなんかいないよって、言いたいのに、言葉が出ないんだ。
オレが涙を流すのは、桜が泣かないから、代わりに泣いてやってるんだからな!
――――
ぱち、と目を開ける。
すると、頬に触れるぐらい近くに幸村様のふわふわした茶髪があった。
あれ…まだ寝てるのか。
いつもオレより早起きなのに、珍しい。
此処には佐助さんがいないしな、誰も起こさないから幸村様も爆睡しているのかな。
「…ぅ、う…ん」
「ゆ、幸村様!おはようございます!」
抱きまくらと勘違いされてしまったのだろうか、力を込めて抱き着かれてしまった。
これはやばい、非常にまずい。
誰かに見られたら誤解されてしまう…、それだけは阻止しなくちゃ!
耳元で叫べば、幸村様は唸りながらもゆっくり目を開いた。
「はて…桜、殿の幻…?」
「幻覚じゃありませんから!…放してくださいっ!」
「……っ!!?ははははは、破廉恥でござるー!!!!」
一気に覚醒した幸村様は、飛び上がって襖に突撃して(綺麗な穴が開いた)裸足で庭に脱走した。
…この調子じゃ、今日一日顔を見てもらえないかもな。
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