賑やかな宴



(…部屋はどこだっけ)


食事の前に客室に案内されたんだけど、チャーリー君が置いてあるその部屋がどの辺りだかさっぱりだった。
迷路にでも入り込んだみたいだ。
いっそのこと、引き返すか…?
あれ、どうやってここまで来たんだっけ!?

暫く廊下に突っ立っていたのだが、誰とも出会わない。
女中さんが歩いていてもよくないか?

しーんと静まり返った夜の廊下。
急に、一人でいることが怖くなってきた。
だって…今にも幽霊が出そうな雰囲気なんだ。
日本家屋ってさ、リアルにお化け屋敷じゃないか。


「っ!?」


ぎし、ぎしと廊下の軋む音がして、オレの方へ誰かが近付いてくるのが分かった。
だけど、今日は空に浮かんでいるはずの月が厚い雲に覆われている。
真っ暗で相手の姿が確認できない。
もし幽霊と鉢合わせしたらどうしたらいいんだ、と不安にかられた。


「……姫様?」

「…こ、小十郎さん?」

「このような所でいったい何をなさっているのですか。此処は滅多に人が立ち入らない離れですよ」


雲が風で流れ、朧気に光る月が顔を出す。
なんだ、小十郎さんか…
安心したオレは、ほっと息を吐いた。

ここ、離れだったんだ。
普通は迷い込まないだろうに。
小十郎さんに方向音痴な姫だと思われたよな…また、桜の名を汚してしまった。


「部屋の場所が、分からなくなってしまって…」

「案内しましょう。着いてきて下さい」

「申し訳ないです…」


これは…、落ち込む。
酒まみれになるのを覚悟で、政宗様の所にいれば良かった。


「…あの、お料理って小十郎さんが作ってくださったんですよね?」

「そうです。野菜も俺が育てています」

「ほ、本当ですか!?すっごく美味しかったですよ!特に煮物のゴボウは絶品で…」


おお!いきなり立ち止まるから小十郎さんの背中に思い切りぶつかってしまった。
な、何か気に障ることを言っちゃった!?
小十郎さんはゆっくりと振り返り、上方からオレを見下ろし、口を開いた。


「牛蒡がお好きですか」

「え、はい、大好きです」

「…嬉しいですね、貴女様にそう言って頂けると」


小十郎さんの目が輝いている。
まさか、小十郎さんはゴボウマニア!?
ならその反応も頷ける。
分かるよ、自分の好きなものを他人にも気に入ってもらえたらそりゃあ嬉しいもんな!


 

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