お子様の心境
雪ちゃんが部屋から出て行った後、オレは静かに息を吐いた。
…何だか、落ち着かない。
誰もいやしないのに、自分の部屋でそわそわしているのはアホらしい…だけど。
「…佐助さん、いますか?」
「……」
「もしいらっしゃったら、お顔を見せてください。…駄目ですか?」
忍者と言えば、天井裏。
佐助さんなら密かに盗み聞きでもしてるんじゃないかなー、失礼ながらそんな気がする。
あくまでもオレの妄想だ。
これで無視されたら、虚しく独り言を口にしているオレが可哀想です。
でも、側にいるような気がするんだ。
なんとなくだけど、そんな気がする。
「…ちょっと桜ちゃん、いつから俺様が居るって分かってたの?」
「いえ…いたら良いなと思っただけですよ」
天井の板を一枚ずらして、ひょっこりと顔を出した佐助さん。
忍びって凄いよな。
埃まみれでも、ネズミと一緒でも平気な体になってしまうのか。
名前を呼んだのに黙っているからか、佐助さんは不思議そうな顔でオレを見ていた。
用件を言わないと困らせてしまう?
いや別に用事はないんだけど…、ああ、言いたいことがあったんだっけ。
「佐助さん、おはようございます」
「え?うん、おはよう」
朝起きてから、まず佐助さんの顔を見ないと、どうにも表現し難い変な感じがするんだ。
佐助さんとのやり取りが、日課となりつつあったからだろう。
違和感がある、というか…寂しいのは。
「朝のお世話も、元は侍女の仕事だったからね。俺様やること一つ減っちゃった。でも、桜ちゃんが望むなら…、こうして朝の挨拶をしに来るよ」
「えっ、本当ですか!?」
雪ちゃんには悪いけど…ごめん。
可愛い女の子に毎朝起こしてもらえるなんて、平均以下の地味な高校生にとっては、勿体なさすぎるぐらいなんだけど!
毎朝、目が覚めて台所に向かったら、母さんが朝飯を作って待っていてくれる訳だよ。
オレの好きな甘いコーヒーや卵焼きを用意してさ。
いや、朝食のメニューはそれほど重要ではない。
佐助さんは、お母さんみたい。
本当のところはどうか分からないけど、佐助さんがオレに接するとき、全身から滲み出る優しさや、雰囲気。
凄く甘えたくなってしまうんだ。
男が母性を感じさせるのはどうかと思ったけど、オレはそれを求めてしまっている。
代わりにしちゃいけない。
オレの母さんは一人だけだし、佐助さんの代わりは一人もいない。
でも、安らげる場所は欲しい。
いいでしょ、これぐらい。
間違っても佐助さんを「お母さん」とは呼ばないからさ!
「それでは兎さん。朝餉の準備は出来ているから、ちゃっちゃと済ませてお出かけしましょうか!」
「え、何処に?ってかウサギ…」
やっぱり聞いていたんだな!
桜はウサギで良いけどさ、オレにはそんな可愛らしいもの、似合わないな。
(オレを動物に例えるなら…鳥?"何処かに飛んで行っちゃいそう"って友達にも言われたことあったし…)
聞かれてまずいこと…結構あったかもしれないけど、まあ良いか。
佐助さんもスルーしてくれたみたいだし、特に問題ないだろう。
それにしても、突然お出かけだなんて、いつでもいきなりだよな。
何処に行くのかな?
誰と?もしかして佐助さんと二人で?
…チャーリー君も連れていって良いんだよな!?
END
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