お子様の心境



「ですが、ひいさまは時折、佐助様とすれ違っては、泣いてしまいそうな…苦しげな表情をされていました」

「私が…、実際に涙を見せたことはあった?」

「ございません」


雪ちゃんは首を横に振った。
オレは涙腺が弱いから、女々しいことにすぐ涙が溢れてしまう。
一生のうちに流れる涙の量が決まっていたとしたら、オレのはとっくに底がついている。

桜は涙を我慢し続けた。
泣きたくても泣かないで、涙を引っ込めて。
だから夢の中で沢山泣いているんだ。
溢れる雫は、寂しい想いをした時、流すはずだった涙なんだ。


「聞いたことがあるんだけど、ウサギは寂しがり屋だから、一人ぼっちになると死んじゃうんだって」

「ひいさまは…兎、でございますか?」


小学生の頃、飼育委員だったオレは、毎日のようにウサギと格闘していた。
ちょこまかと逃げる奴らを追いかけて、甲斐甲斐しく世話をしてやって。

確かに、苛立った時もある。
でも、オレが飼育小屋から出ていくとき、潤んだ瞳で見上げてくるんだ。
帰るな、寂しいだろうが、って。…それがまた、可愛いんだけどさ!
あまりにも柔らかいから、抱き上げるのも戸惑うし、ちょっと触れるのだけでも、怖いと感じた。

そうだよ、桜はウサギっぽい。
泣き腫らした目が真っ赤になり、孤独に震える桜は、触れたら壊れそうなぐらい…弱い女の子なんだよ。


「…言ってみただけ!また色々教えてね。私、もっと私のこと知りたいから」


何でもいいから、オレに桜のことを教えてくれ。
もっと近くに感じたいんだ。
小さな思い出だって、桜を救うために役立てることができると思うから。


 

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